リバースモーゲージ、なぜ普及しない?

リバースモーゲージをご存知でしょうか?今お持ちの不動産を担保に毎月一定額をもらい続け、借主が死亡した際に相続人が不動産を処分する手続きの中で残債を一括返済するというものです。ぱっと聞いた限り、年金だけでは生活費におぼつかない、あるいはまとまった資金が必要だけどない、という方には「天使のささやき」のようですが、実は「悪魔のささやき」でもあります。

また貸す側も借主がいつお亡くなりになるかわからないこのご時世においてどうやってそれを計算するのか、ビジネスとして計算が成り立たないギャンブル的要素を含んでいます。

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カナダでも当然にしてこのリバースモーゲージは存在していますが、あまり普及しているとは言えません。先日もカナダ最大手の銀行の方と話をしていたところ「当行はそんなビジネスはしませんよ。もっとランクが下の銀行さんならやるかもしれませんが、貸す側のリスクが大きいし、借りる側の金利もとてつもなく高いですからねぇ。」と。

私のよく知る人が父親のためにリバースモーゲージを組んだので契約書を見せてもらいました。金利は9%と通常2%もしないこのご時世に消費者金融並みの利息を取られるのです。おまけに住宅の担保価値も小さく、果たして「持続可能」なのか、こういうのが大好きな私が冷静になって借り手の立場になれるか再検討してみました。

結論からするとカナダでやる場合にはうまみが相当ある、ただし、倫理的にそれが正しいかといえばかなり疑問視せざるを得ない、と思います。理由です。カナダの不動産価値は日本と同様、土地と建物の評価額が基準となりますが、日本と違い、建物は概ね再建築した際の価値を基準にするので償却部分と再建築コスト増が相殺されて建物の価値が下がりにくくなっています。一方、土地の価値は安定的に上昇し、不動産取引価格も上昇し続けていますので担保価値が増えます。

よって長くローンを提供しても貸し手は担保の再評価をすればよく、借り手も長く借りることができるのです。そもそも9%もの利息なら極めて高い利益です。さすがに大手銀行ではできないけれどそういうサービスは可能かと思います。但し、借りる側からすれば家一軒なくなると思わねばなりません。

私ならリースバック方式の方がよいと思っています。これは住宅をいったん業者に買い取ってもらい、その家に賃料を払って住み続けるというものです。この場合、売主はまとまった資金が手に入ります。またやり方によっては10年分の賃料をその売却代金から事前に差し引いてしまうという方法も取れます。その場合、賃料は10年分の賃料を現在価値に引き戻す計算を施すことで安い賃料を提供することができます。

リースバック方式の業者側のメリットは安定した賃料が期待できること、特に賃料を事前に差し引いた場合、賃料のとりっぱぐれが生じません。また物件を長く持つことで不動産価値の上昇が期待できます。あくまでもカナダでの話です。

では日本の場合を考えてみましょう。まず、リバースモーゲージですが、極めて難しいビジネスモデルだと思います。理由は簡単です。戸建ての場合、上物(建物)の価値はリバースモーゲージを考慮する方々の住宅は古くほぼ償却済みである可能性が高く、不動産の価値は土地しかありません。マンションの場合はもっと難しいと思います。それは管理費未納のリスクがあるからです。また当該物件の支配権が管理組合に依存するところが大きく、価値は建物ごとにぶれる可能性があるのです。そこにはメンテを含む不動産価値の維持計画も検討せざるを得ず、大規模修繕、水漏れなどの多額の工事費用が突如かかるリスクが貸主にかかることもあり得ます。

担保をもつ貸主は「それは借主の問題」で片づけようとしますが、実際には担保価値の遺棄が生じるわけで私なら予想不可能なリスクが大きすぎてやらない、というか、やれないと思います。

日本でリースバックをする場合、戸建てなら私はやれると思います。マンションは同様の理由により不可能です。

では日本には業者はないのか、といえばちゃんとあります。リバースモーゲージは一部大手銀行を含むいくつかの銀行がサービスを提供しています。また、住宅金融支援機構が「リバース60」という商品で相続人への求償を不可能にするノンリコース型を提供し、若干、市場発掘につながっているようです。それでも年間1000件程度です。結局、住宅価値に対して5割程度しか貸してくれませんので仮に市場価値3000万円の不動産をお持ちなら暗算程度の精度で計算しても毎月もらえるのは月に6-7万円ぐらいにしかならないと思います。

一方日本のリースバック方式は市場価格の7割、賃料は買取価格の8%とあります。同様に3000万円の不動産なら2100万円をもらうけれど月々14万円の賃料を払うということです。これは12.5年後に手にした2100万円が全部賃料で消える計算です。業者は3割安で物件を購入し、将来、確実にその物件を手に入れることができるのでこんなに業者側にうまみのある話はない、ということになります。

不動産を所有する人が老後、悠々自適の暮らしをする方法は編み出せます。私ならリースバック方式で土地のみの評価額100%、賃料を買取価格の4%程度ぐらいの金額は確実に提供できると思います。結局、このビジネスモデルの最大の難点は買い取り資金を調達しなくてはいけないので金融機関が手を付けない限り、広がりはないと思います。

これ以外にも方法はあると思います。多分、それが私の今後数年間の課題というかチャレンジになるかもしれません。老後に安心を、大事ですよね。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年11月16日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。