国会議員の文書通信交通滞在費でピンボケの盛り上がり

多田 芳昭

衆議院議員選挙の投開票が行われたのが10月31日で、10月はたった1日の稼働で文書通信交通滞在費100万円が満額支給されたと、維新の小野泰輔議員が発信した。これに呼応する様に、各政党、各議員から様々な反応があるが、基本的にこの制度の不味さを指摘し、返納や寄付という反応が広がっている。

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吉村大阪府知事は、自身の議員辞職時の批判ブーメランを受け、もう何年も前のことだが、自身の市長選立候補に向けての議員辞職時の文書通信交通滞在費も1日の稼働で満額支給されており、全額寄付するとの発言まで出てきている。

立憲民主党の福山幹事長は、この件に関して「立法府として、ある意味見過ごしていた部分があった」との発言まであった。

筆者は、この一連の動きに違和感を持つのだ。

議論し決めたことなのに今更の発言が多すぎる

まず、この件に関して確認しておくべきは、今に始まった議論ではないということだ。記憶の範囲では、民主党政権時に国会議員の歳費に関して同様の問題指摘があり、日割りなど議論され、同時に今回問題となっている文書通信交通滞在費も懸案になっているはずだ。見過ごしたのではなく、現在の形は与野党で議論した結果なのだ。

歳費に関しては、給与という性格上、議員である日割りで支給されるという論理が成立するが、文書通信交通滞在費は経費であって本質的には日割りにするべき性格のものではない。経費ならば、使途の明確化が必須であり、実費精算で領収書も必要という論理も成立するが、国会議員の活動に関して、公には出来ない機密の行動もあり得る為、領収書も不要という論理で今の形になっていると理解している。

何か、あたかも見落としていて、今気づいたから、日割り計算だ、返金できないなら寄付だとするのは、余りにもこれまでの議論軽視ではないだろうか。ふざけるなと言いたい。もし、本当に軽々しく見過ごしていたとの認識で、あり得ない、返金だ、寄付だと言うのなら、過去に決めた経緯を総括し、責任を取るべきだろう。

堂々と、「過去の経緯で議論されて決まっているものであり、これに見合うだけの活動をお約束する」「過去の議論を見直し、状況変化に応じて修正すべきは修正するべく議論する」と発信する議員はいないのだろうか。嘆かわしい。

庶民感覚で我々の代表の議員活動を語るべきでない

もう一つ、多くのワイドショーなどマスメディアの扱いが余りにも酷い。それは、月100万円という額を庶民感覚で語ることだ。

問題点は大きく2点ある。一つは、100万円/月を個人収入の様に語り、あたかも視聴者の個人所得と比較するかのように多額である印象を植え付けている。もう一つは、間接民主主義、議会制民主主義に則り選挙で選択した我々の代表である議員を信頼できない不正な金を使う悪者として扱っていることだ。

前者に関して、年収1200万円分の自由に使えるお金と称するのはやめるべきだ。会社経営や個人事業として活動経験があれば、経費としての月100万円で出来る事が限られることぐらい理解できるだろう。国会議員とは一人の個人経営者であり、自分を選んでくれた有権者の声を聞き、全国民の生活を担う責任を負う活動が求められる。100万円という金額を云々するのに、庶民の生活感や下種な勘繰りで語るのでなく、実際の活動内容を理解した上で語る必要がある。

勿論、経費なのだから、何も活動しなければ費用は発生しない。しかし、何も活動しない人物を代表として選出したのだろうか。後者の問題も議会制民主主義の基本理念を理解すれば、仮に悪者を選択したのならば有権者の責任なのだ。自分が投票したのは別の人だというのも民主主義を愚弄する発想であり、所定の手順で決まったことは、例え意に反するとしても従うのが民主主義だ。

100%自分の意思を代行する人など世の中に存在しない。概ね良いだろうという判断で選択し、直接民主主義であれば自身が情報取得や発信活動をして意見集約し実行計画を立て具現化しなければならない活動を、選択した議員に委任して成立する。その委任した活動で結果が出なければ次の選挙でノーを突き付ければ良い。

それでもどうしても認められないなら、自身が立候補して意を唱えれば良い。自分が火中の栗を拾わず、理屈に合わない文句だけを言うのは無責任でしかない。

それでも不正抑止の為に、使途を明確にという声に対しては、経費を実費精算にして使途の帳簿を義務化し、機密情報として文書管理をする改革は必要かもしれない。文書管理の基本として機密保持期間経過後は公開、或いは開示請求に応じた公開に留めるべきだ。それでも、一般に即時公開するのはあり得ないだろう。企業の経費だって一般に公開などしていないのだから。

文書通信交通滞在費の活用提案

筆者は、文書通信交通滞在費の活用方法として、現在の政治活動の問題性を少しでも解消し前進させる提案をしたい。

マスメディアの情報が偏向し、一方向でしかなく、発信当事者達の反省も見受けられない状況で建設的な是正が進むとは思えない。であれば、その状況でも適切に情報の受発信を実行する必要がある。特に政治を志す人物であれば尚更だろう。

これからの政治家に必要なのは、ネットによる双方向コミュニケーション。動画コンテンツ発信、メルマガやSNSなども含めた情報発信チャネルを創設することだろう。静的Webだけでは不充分、双方向性を担保し、自身の政策や所属政党のそれも含めて、思考回路をあからさまにし、様々な議論を展開すべきだ。

それ以外にも、ネットに渦巻く情報を適切に集約分析し、メディアの情報と対比して、本当の世論を把握し、同時にリアルの足を使った活動でフェースツーフェースの情報も併せる企画立案にて活動を活発化し、政策に活かすべきだ。

アナログとデジタルは相反するものではなく、混合することで活用性は飛躍的に拡大するものなのだ。そして、次世代の若者の政治参加を促し、若者の世論を受け止めた活動が可能になる。

この様に考えると100万円/月では足りないと感じるのだが、如何だろう。