ロックダウンの風景が変わってきた

4回目となると、どんな鈍感な国民でも慣れてきて緊張感がなくなるものだ。オーストリア政府は22日から約3週間のロックダウン(都市封鎖)を実施した。ロックダウンといえば、国民の外出制限を意味し、国民経済活動が停滞することを意味し、新型コロナウイルス感染対策としては最強の手段と受け取られてきた。コロナ規制に反対する国民はロックダウンを目の敵のようにして、実施を阻止するために闘ってきた。

4回目のロックダウンの初日風景(日刊紙エステライヒ11月23日付から)

そのロックダウンが2年間で4回目となると事情が変わってくる。国民の間にも“ロックダウン慣れ”ともいえる現象がみられ、いい意味で平静心、少し批判的に表現すれば緊張感がなくなってきた。

4回目のロックダウン初日の22日早朝、いつものように駅まで新聞を取りに行った。多分、多くの労働者はロックダウンで職を失うか、短期労働を強いられ、ホワイトカラー族はホームオフィスを強いられるから、駅周辺は静かだろうと考えていた。それが駅周辺はいつものように地下鉄や市電を待つ人々で賑わっているではないか。彼らはロックダウンが始まったことを知らないはずがない。不要不急の外出制限を無視したり、FFP2マスク着用義務に違反すると500ユーロ前後の罰金が科せられる。そんな危険を冒してまでコロナ規制を破る労働者は多くないはずだ。

昨年春の最初のロックダウンを思い出す。市内から人の姿は消え、車の数も減少、自宅にいても外から部屋に入ってくる騒音は限りなく少なかった。街の鳩やカラスも人間社会の異変に気が付き、不安げになり、飼い主と散歩する犬も落ち着きを失ったものだ。

そのロックダウン風景が回数を増やすにつれて変わってきた、というか、通常の日常生活の風景に接近してきた。テレビ放送は「ロックダウン、ロックダウン」と叫び、国民の日常生活が著しく制限されている、といった報道を流すが、多くの国民は別の国の話のように聞き流す。もちろん、22日は4回目のロックダウンの初日だ。国民も生活のリセットに時間がかかる。今週末頃になれば、国民はロックダウン・モードに入るのではないか、という人もいる。

24時間外出制限下で、スーパー、薬局、公共の運輸機関、医療関係者は普通通りに働く。会社員はホームオフィスか、会社に行かなければならない場合は会社内でもFFP2マスクの着用が義務となる。それ以外の業種や職種に勤務してきた国民は自宅待機だ。レストラン、喫茶店、コンサート、劇場は閉鎖される。今月14日からオープンしたばかりのクリスマス市場は来月12日まで閉店だ。ちなみに、ウィーン市だけで約4万店が閉鎖し、約25万人の労働者が自宅に留まるという。

一方、学校は基本的にはオープンだ。自宅でEラーニングするか、学校に行くかは各家庭が自主的に判断する。学校ではいつものように週2回から3回のPCR検査を受ける。4回目のロックダウン初日は子供たち(約110万人)の約75%が学校に行ったという。

文部省はロックダウン前に「学校はオープン」と通知する一方、「誰も絶対に来なければならないことはない(Keiner soll kommen)」と親に連絡した。要するに、子供を学校に通わせるか否かは親任せというわけだ。親が仕事をし、家に誰もいない場合、子供は学校に来る。教師は22日、メディアのインタビューに答え、「ほとんど普通の日と変わらなかった」と語っていた。

ロックダウンは国民経済に大きなダメージを与える。観光を国の看板としているオーストリアでは4回目のロックダウンで「もはや回復は出来なくなった」と叫び声をあげるホテル経営者も出てきた。ただ、チロルなどスキー場のリフト業者はロックダウンでも営業が許可されているから、他の業界から「不公平ではないか」と言った声も聞かれる。いずれにしても、ドイツ南部、チェコ、スロバキアなどオーストリア周辺地域でも新規感染者が増加しているから、近隣諸国からのゲストは期待できない。

1回目、2回目のロックダウンは国民も緊張していた。今年春の3回目のロックダウンではワクチン接種が始まったこともあって、政府はワクチン接種を訴え、国民もコロナ禍からの脱出の日が近いと感じ出した。そして夏季休暇では海外で休日を楽しむ国民が増えた。しかし、秋からは昨年と同様、新規感染者が急増し、今月に入ると過去24時間で1万6000人余りの新規感染者が出てきた。過去2年間での最多記録を更新した。病院は入院患者が増え、集中治療室(ICU)のベッドも空きがなくなり、ザルツブルク州の州クリニックではトリアージ・チームができ、入院患者の振り分けが現実味を帯びてきた。慌てた政府は今月8日から2Gを導入、ワクチン未接種者を対象としたロックダウンを実行したが、ワクチン接種率は上がらない一方、新規感染者の増加にブレーキがかからなかった。そこで22日から4回目のロックダウンに踏み切ったわけだ。

23日公表された過去24時間の新規感染者数は9513人と久しぶりに4桁台に減少した。ロックダウンの初日、オーストリア各地のワクチン接種会場には長い列ができた。来年2月1日からはワクチン接種が義務化される。ロックダウンが解除されてもワクチン未接種者は接種を受けない限り、レストランや喫茶店に行けない。これまでワクチン接種を拒否してきた国民の中にもまだ多くはないが接種を受ける人が出てきた。

オーストリア国営放送は22日夜、ウイルス学者、専門分野の研究者、医療専門家を招き、ワクチン接種を拒否する国民の声に専門的に答えさせ、ICU患者で回復した男性の生の証言を放送していた。同時に、国営放送は22日から年末までワクチン宝くじをスタート、国民に接種を呼びかけるキャンペーンを始めた。国を挙げての“接種率アップ起こし”だ。23日の時点でワクチン接種率は1回接種70.2%、接種完了は65.7%だ。

コロナ禍も2年が過ぎると、経済界も生き延びるためにいろいろな新しいビジネスや工夫を始めた。レストランなど飲食業界は出前に力を入れている。自宅まで運ぶ配達業者は大忙しだ。食品関係以外で閉店を余儀なくされた業者でもオンラインで注文を取り(クリック&コレクト)店の前で手渡すことが出来る。「通常の商売のような売り上げは期待できないが、店を閉めて国からの援助だけで生きて行けば、商魂がなくなる」と一人の店のオーナーが答えていた。

ロックダウンも4回目となるとその風景が変わる。人気が消え、幽霊のような街になるような風景はもはや見られない。コロナ規制下でも国民は生きていかなければならないのでさまざまな知恵を出してきた。国民はロックダウンをもはや恐れなくなった。これを“ウィズコロナ時代”の夜明けというのだろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年11月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。