独次期政権「大麻の合法化」目指す

ドイツの社会民主党(SPD)、「緑の党」、そして自由民主党(FDP)の3党は24日、先月21日から続けられてきた連立交渉で合意が成立したことを発表した。その結果、「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)主導のメルケル政権は16年間の幕を閉じ、SPDのオーラフ・ショルツ財務相を次期首相とした3党連立政権(通称・アンプル政権、SPD=赤、緑の党=緑、FDP=黄)が来月上旬にも発足する運びとなるが、SPDとFDPは党大会で連立協定を、「緑の党」は党員の投票でその是非を問うため、新政権の発足には10日間あまり時間がかかる。その後、連邦議会(下院)の承認を受け、ショルツ新政権が正式にスタートする。ドイツで3党連立政権は連邦レベルでは初めて。

連立交渉で合意成立(中央ショルツ次期首相)2021年11月24日、ベルリンで、自由民主党公式サイトから

9月26日の連邦議会選でSPDは第1党となり206議席を獲得、「緑の党」158議席、そしてFDPが92議席を獲得し、3党の総数456議席で下院の過半数(定数736議席)を占める。ちなみに、野党に下野するメルケル首相のCDU/CSUは197議席だ。

新政権は15閣僚から構成され、SPDはショルツ氏(63)の首相ポストのほか6閣僚、「緑の党」はロベルト・ハーベック共同党首(52)の新設の「環境経済相」(副首相兼任)、アナレーナ・ベアボック共同党首(40)の外相など5閣僚を、FDPはクリスティアン・リントナー党首(42)が財務相に、そのほか運郵相、法務相 デジタル教育研究相の4閣僚ポストを得る予定だ。

ベルリンで24日午後3時から開かれた3党代表記者会見で、次期首相に就任するショルツ財務相は新政権を「Koalition auf Augenhohe」(目の高さでの連合)と規定し、「異なる政治信条の3党が違いを乗り越え、結束し、わが国を刷新していきたい」と抱負を語った。

一方、FDPのリントナー党首は、「3党で共通する点はわが国を近代化しなければならないという認識があることだ。わが国を発展させるためには民間のイニシアチブ、ノウハウ、資本を規制から解除し、社会のデジタル化、教育・研究の奨励が重要だ」と指摘する一方、コロナ禍で財政赤字が急増してきたことを受け、「2023年から債務ブレーキをかけ、財政の健全化を図る」と述べた。同党首はメディアから「3連立政権は左派政権」と呼ばれていることを意識し、「新政権は中道だ」と強調した。

一方、ハーベック党首は、「連立交渉で合意した環境保護政策には満足している。新政権が国民の福祉向上と環境保護の一体化で歴史に名を残すことを願っている」と語り、ベアボック共同党首は、「新政権は重要な分野でパラダイムシフトをもたらすだろう」と述べた。

3党が合意した連立協定(177頁)の見出しは「自由、正義、持続可能性の為の同盟」(Bundnis fur Freiheit, Gerechtigkeit und Nachhaltigkeit)だ。3党連立政権の重要な政策は再生可能なエネルギーの拡大、最低賃金12ユーロ(時給)の引き上げ、住宅建設の促進だ。その中でも環境保護はトップ課題だ。「2045年までに気候中立の目標は、再生可能エネルギーを拡大し、2030年までに石炭を段階的に廃止することで理想的に達成される」と記述している。なお、連合協定の中で懸念される点は、成人を対象に大麻の合法化を実施し、中絶の広告禁止撤回が明記されていることだ。

メルケル政権を引き継ぐ次期政権の緊急課題はやはり新型コロナウイルスの感染対策だろう。コロナ感染は新政権発足まで待っていない。ショルツ氏は、「連邦首相府にコロナウイルス危機対策チームを常設する」と表明、ワクチン接種の義務化については、「特定の職者の義務化は当然だが、一般の義務化については検討しなければならない」という立場を明らかにした。

参考までに、ドイツ国立感染症研究所「ロベルト・コッホ研究所」(RKI)が25日早朝(現地時間)明らかにしたところによると、過去24時間でドイツの新規感染者数は7万5961人、351人が死亡した。パンデミック以降の累計死者数は10万人を超えた。

3党連立政権の発足について、野党となるCDU/CSUからは、「新政権の連合協定を見る限り、新しい出発というのは不十分だ。ただし、現在の危機を乗り越えるために協調できる面では支援を惜しまない」という声が聞かれる。また、極右政党「ドイツの為の選択肢」(AfD)は、「新政権は左派政権だ」と指摘し、新政権に対して厳しい姿勢で臨むことを明らかにしている。なお、記者会見ではメディアから、「SPDはメルケル政権のパートナー政党だった。その政党が新しい出発と信頼ある政権というのはおかしい」という辛辣な質問が飛び出した。

3党の連立交渉は予想以上にスムーズに進展し、次期政権の発足が決まり、ショルツ氏が公約していたように、年内に新政権の誕生は問題なくなったが、SPD・「緑の党」とFDPの間では経済政策では大きな相違がある。それだけに、3党協調路線がいつまで継続するかは不確かだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年11月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。