国際女性デーの集会がコロナ感染の起爆剤に

ヨランダ・ディアス第2副首相兼労働相 ESPAÑA, CORONAVIRUS 8M CON AFIRMACION DIAZ. 15-12-2021.

第2副首相は政府が隠蔽していたことを暴露

昨年3月8日、「国際女性デー」の集会がマドリードでも行われた。それがコロナ感染拡大の起爆剤となっていたことが今月12月に明らかとなった。これまで20カ月間、それを政府が隠蔽していたことになる。その隠蔽を暴露したのが、誰あろう同じ政府の第2副首相兼労働相ヨランダ・ディアス氏だ。

彼女のこの発言に、政府内の特に社会労働党出身の閣僚は不快を露わにし、全てのメディアがそれを取り上げて物議を醸した。現政府は社会労働党と共産主義政党ポデーモスの連立政権だ。

その発言内容というのは次の通りである。

ディアス第2副首相は「イタリアでパンデミックが激しく猛威を振るっていたので、2月15日に私は側近らを集めた。イタリアの次はスペインだと確信していたからだ。その為に多くの対策を講じる必要があった。私はそれを3月4日の閣僚会議にかけてその為の対策を提案した。ところが、それが政府内で論争となって私のことを(他の閣僚たちは)人騒がせだと非難した。これが3月8日の国際女性デーの前の閣僚会議で起きたのだった」とラジオ番組の中で語ったのである。(12月2日付「リベルター・ディヒタル」から引用)。

ところが、彼女は3月8日のメディアを前にしての発言では180度内容が異なった次のような発言をしたのである。「全く平静でいるべきだというメッセージを私は送りたい。保健相の指示のもとにスペイン政府は正しく対応している。だから今のところは危険性が加速する恐れはない」と述べたのだった。(12月3日付「リベルター・ディヒタル」から引用)。

ディアス第2副首相は今回の発言が物議を醸したことを反省したのか、爆弾発言の翌日2日のインタビューで彼女は「閣僚全員が逐一状況を掴み、各部門と連携して情報内容を判断している保健省の指示に従って対応していた」と述べて前日の爆弾発言の内容を薄めようとした。一方の首相官邸からメディアへの回答は「コロナウイルスの進行に対しての指示と対策は保健省から出される指示に全閣僚は従っていた」と述べただけでこの件への深入りを避けた。

コロナ感染の起爆剤となることを承知していたサンチェス首相

ガリシア州の地元政党出身のディアス氏がなぜ今回の爆弾発言をしたのか? 彼女は連携している政党ポデーモスの中で次期総選挙を睨んでリーダーになり、社会労働党を追い越して政権を取ろうと企んでの発言なのか? 或いは単にラジオ番組に出演した際の司会者との対談での流れの中での失言なのか? どちらか今のところわからない。しかし、この発言によって政府は国際女性デーの開催がコロナ感染拡大の起爆剤となることを承知でそれを許していたことが明らかとなったのである。そのGoサインを出したサンチェス首相の責任が問われるところである。

それを裏付けるかのように、それに参加した閣僚の中で4日後にモンテロ平等相とカロリーナ・ダリアス保健相(当時、自治相)が感染していることが判明。それから2日後にはベゴーニャ・ゴメス首相夫人も感染。それに続いてカルメン・カルボ(当時、第1副首相)も感染となって、4人が感染したことが判明したのであった。

更に、この集会が行われた日までにマドリードでは既に16人が感染して死亡し、数千人が感染していたことも判明していた。

しかも、1月29日には世界保健機構から集会は出来るだけ避けるようにという指示があった。また欧州疫病予防管理センターからも3月2日に警告がスペイン保健省に通達されていたことも判明している。これらの警告を無視して政府は国際女性デーを開催したのであった。

そして国際女性デーの6日後の3月14日になって、サンチェス首相は非常事態宣言を発動したのであった。その理由はこのまま制限なく事態を放置しておけば3月20日には感染者は2万8000人まで膨れ上がり、死者も800人に至るという専門家の予測を尊重したからだとした。(2020年3月15日付「OKディアリオ」から引用)。

また同日、極右政党ボックスは9000人が集まっての集会が開催されていた。また前日の7日には6万人の観客を集めてマドリードでアトゥレティコ・デ・マドリードとセビーリャの試合もあったということでこれらも感染拡大に影響している可能性は十分にあった。

そうは言っても、国際女性デーを中止にしていれば感染拡大のスピードが遅れていた可能性は十分にある。感染が拡大しているのを承知で国際女性デーを開催した政府の責任は重い。サンチェス首相以下閣僚は全員辞任すべきであろうという意見もある。ところがスペインの閣僚が辞任することはこれまでも非常に稀なことである。

例えば、ドイツ、英国、フランスなどでは閣僚が失態を犯せば辞任するのが当たり前になっている。しかし、スペインはそうではない。サンチェス首相自らが大学で経済博士号を取得するのに彼の論文の内容の多くが他者の著述などを引用したのにそれを明記していなかったことが判明している。ドイツだと、このようなケースの場合は該当する大臣は即刻辞任している。スペインでは残念ながらそれは起こらないし、また辞任に追い込むだけの外的圧力も存在しない。

共産主義政党と連立した社会労働党の政権の弱さ

ではなぜ危険を冒してまで国際女性デーを開催したのか? その理由はポデーモス出身の閣僚がそれを強く主張したからであった。過半数に満たない議席数の社会労働党はポデーモスの協力なくして政権を維持できないからだ。その先頭に立っていたのが女性の地位向上を主張しているポデーモスの平等相のイレネ・モンテロ氏であった。彼女は参加後にコロナに感染したのであるが、彼女はバスク州営テレビ局の本番のインタビューの前に、プライベートに同局の記者と会話していた内容が彼女の知らない内に録音されていた。その会話の内容が昨年6月1日付の「ABC」に掲載された。その会話の一部でひとつ気になる指摘を同相が次のように表現している。

記者が「参加者が減っているのはなぜだと思う?」とモンテロ平等相に質問した。

モンテロ氏は「コロナウイルスのせいだと思う。が、それは(公式には)言えないから言わないことにする」と答えた。

記者「問題にさせない為ということからでしょう」

モンテロ「そうではなく、慎重になりたいからだ。政府が発表している情報は医学的データーに基づいた情報だ。公衆衛生を優先せねばならない。パニックになった状態での決定はしないこと。というのもヨーロッパの国の中には過激な手段を取るようにしている国もある。非常に強硬な手段をとってもコントロールできるキャパには限界がある」と答え、更にモンテロ氏は発言を続けて「(保健)省は(もうこのような集会は)閉めるべきだ。というのは、誰もがひっきりなしに『(モンテロ)大臣キッスして、(大臣)キッスすることできますか? コロナウイルス、関係ない、キッス、キッス』と言って私のところに迫って来る。これを防ぐ方法はもうないからだ」と語ったのである。

「ABC」に追随して他紙や各テレビ局でもこの会話の内容を一斉に報道した。それが狙いとしているのは、政府はこの国際女性デーはコロナウイルス感染を拡大させるための集会になる恐れが十分にあったのを承知していながらなぜそれを中止させなかったのかという疑問を各メディアが持ったからであった。しかし、この時点では冒頭で触れた爆弾発言の内容をメディアではまだ誰も知る由はなかった。それが判明したのは20カ月後であった。