4人に1人は「相手の話を正確に聞く」ことができない

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

一般的な傾向として、話をしっかりと聞く「傾聴」より、雄弁な「語り」が良しとされる。多くの人にとって、「聞く」より「話す」方が気持ちいいからだ。

kazuma seki/iStock

だが、ユダヤの格言「口は一つなのに耳は二つ」からも分かる通り、これは逆こそ真なりと思っている。世の中に話したがりやが多いということは、需要と供給のバランスでいう「聞き手」が常に供給不足な状態だからである。また、有益な情報を提供してくれるような人物に傾聴の姿勢を示し、気持ちよく話をしてもらえば情報を得て得をするのは聞き手である。以上のことからも、明らかに上手に話すより上手に聞くメリットが大きいのだ。

だが、多くの人は自分で思っているほど相手の話を正確に聞けていないし、そもそも本人が傾聴の必要性を理解していないことも少なくない。個人的な肌感覚として、相手の話を正確に聞く力がある人は世の中の4分の1もいないと感じる。その一方で口下手は本人も自覚している事が多く、こちらは訓練でいくらでも治療可能だし、逆に口下手な方が相手からの信頼を得られるケースすらある。やはり注力するべきは、明らかに傾聴力の強化であろう。

話を聞けない人たちの特徴

さて、筆者が体験した「話を聞けない人たち」を紹介したい。

まずは強い思い込みを持った人である。筆者は記事や動画、講演で話をする機会があるのだが、こちらが一言も話していないことを、勝手に想像して決めつけ「お前は間違っている」と怒り出す人が一定数いる。さらに始末が悪いのは「勝手に期待し、勝手に失望する」人たちである。YouTubeの動画を見て「いいこと言いますね!」など最初は肯定的に聞いてくれていた相手が、その後「裏切られました!」など豹変して激昂メッセージを送りつけてきたことがある。こちらが一言も言っていないことを勝手に曲解して推測し、一人で盛り上がって失望していった人である。

日本は文化的にハイコンテクスト社会であり、言語化されない部分の正確な推測が重要である。日本社会において、世渡り上手な人とは「不文律を素早く理解し、そのレールを上手に歩める人たち」を指す。だが、悪い意味であまりに想像力が豊かだと拡大解釈のリスクが生じる。

傾聴をする上で最も重要なこと

世の中には小手先の技術ばかりが取り沙汰されがちで、うなづき方や表情などのテクニックが重要と言われる。だが、筆者の持論でいえば、相手の話を正確に聞くための最重要ポイントは「自分は相手のことを何も知らない」としっかり自覚することだと考えている。この認識さえ捨てなければ、その他の傾聴のテクニックなどは自然に備わる。

相手の話を勝手に思い込みをしたり、共感を求める相手に正論でアドバイスするようなケースは、いずれも「自分は相手の話はとっくに理解している」という誤認から来ている。その逆に相手の話を理解していないと認識すれば、「相手が何を言いたいのか、理解するためにしっかり聞かなければ」と身を乗り出して集中して聞くことになる。つまり、「相手はこう言いたいのだろう」という自身の思い込みを外すことが重要なのだ。

よくあるケースが「話を黙って聞き、共感してほしい」と思っている相手に対して、途中で話を遮り、グダグダと聞かれもしないアドバイスをしてしまうケースだ。こうした場合、聞き手は「自分はよくわかっている」と勘違いしているし、話し手は「この人は自分をわかってくれない。もう話したくない」というスレ違いが起きている。

筆者は英語を教えている立場であり、よく受講生から悩み相談を受ける。本当に英語学習技術を教わりたいと、具体的なアドバイスを求める人もいるが、中には辛い現況に共感してほしい人もいる。話を聞く前に「自分は相手のことを何もわかっていない。最後まで話を聞き、相手が求めることをまず理解する」ということを何度も反芻した上で会話をスタートするようにしている。相手の話を最後まで聞き、その結果相手は共感を求めるならまずは共感を示すし、具体的な技術的ソリューションを求めるならそれを提供するようにしている。

傾聴に最重要なのは、「自分は相手のことはわかっていない」と認識することだ。

傾聴は難しい。それがテキストでも音声でも等しく同じだ。我々は母語である日本語を完璧に操れると思いがちだが、その実「正確に聞く」という行為は実際かなり難しいのである。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。