カインズにないもの。東急ハンズにあるもの。

株式会社カインズ(以下カインズ)が株式会社東急ハンズ(以下ハンズ)買収を発表しました。

ホームセンターのカインズ、東急ハンズを買収

ホームセンターのカインズ、東急ハンズを買収 - 日本経済新聞
ホームセンター最大手のカインズは22日、東急不動産ホールディングス(HD)子会社で雑貨店を展開する東急ハンズ(東京・新宿)を買収すると発表した。カインズの店舗は郊外が中心。東急ハンズを傘下に収めて都心部を含めた店舗網の拡大につなげる。新型コロナ後の消費変化を見据えた小売業界の再編が加速してきた。買収額は200億円超とみ...

「残念」「寂しい」「時代の流れ」

まるで閉店したかのような声が多く聞かれます。もし、ハンズ色が薄れるようであれば本当に「残念」なことです。しかし、この買収は両社にとって良策となる可能性があります。

東急ハンズの業績は、集客力の低下やショールーミング(※1)の影響で低迷。前期(2021年3月期)の営業利益は約45億円の赤字となっていました。

一方、カインズはホームセンター業界売上1位(DCMホールディングス売上には島忠含めず 以下同じ)。プライベートブランド(以下PB)に圧倒的な強みがあります。

カインズの高い品質のPBで集客し、ハンズの高価格帯商品への非計画購買を促す。カインズとハンズの親和性は高く、相乗効果は大きいはずです。

今回はカインズのハンズ買収について考察します。

左:東急ハンズ 右:カインズ
筆者撮影

カインズの強みはPB商品

カインズの本部は埼玉県本庄市。都心では江東区に南砂町SUNAMO店を構えます。店舗数は少ないものの、2021年2月期には売上高4,854億円に達し、ホームセンター業界1位となっています。

カインズの強みは、PBです。

白色度を変え、用途別に3種用意したプリンタ用紙。レトロで秀逸なデザインにもかかわらず、3~5千円と安い調理家電。丸みを帯び安全で使いやすい収納。文具、家電、雑貨、全方向に豊富な品揃え。その数は1万3千点に及びます。中にはグッドデザイン賞(※2)を受賞したものも。他のホームセンターのPBとは一線を画しています。

カインズプレスリリースより

小売業は、販売商品中に占めるPBの比率を増やしつつあります。ナショナルブランド(製造メーカーの名を冠したブランド)と同等の品質かつ安価な商品を求める層が増加したためです。株式会社西友(西友)はPBの比率を25%に、コンビニ大手 株式会社ファミリーマートは35%に増加させることを発表しています。

カインズのPB戦略は異なります。

カインズは、PBを「他社が出さない商品を補うためのもの」と位置づけます。よって、PB比率を高めようとはしていません。他社商品を躊躇なく仕入れることができます。ハンズの「目利き力」を活用し、良質な他社商品を仕入れ、品揃えを充実させる。強い商品面をさらに強化する。これが、今回の買収の相乗効果のひとつです。

一方、ディスプレイ(展示・陳列)など演出面に問題があります。

店内では「憧れ」や「楽しさ」があまり感じられません。

密集した商品配置。紐でぶら下がった値札。せっかくオシャレなデザインのPB商品なのに、とても「チープ」に映ります。この商品を使った生活に憧れを抱く人は少ないでしょう。ディスプレイ次第で、大きく改善するはずです。ディスプレイ改善は、衝動買い・ついで買いを促します。

しかし、こういった演出スキルは、従業員つまり「人」に依存します。育成は簡単ではありません。

ハンズの強みは「人」

一方、ハンズの強みは「人」です。

ハンズ従業員の説明力の高さは定評があります。創業後、しばらくの期間、店舗スタッフがバイヤーを兼ねていたこともあり、商品知識が豊富なのです(現在では「店員セレクト」以外本社に集約)。こういったハンズの従業員スキルは、カインズの演出面にも活用されることでしょう。

ハンズの強みは従業員だけではありません。出店者たちも強みなのです。

園芸品売り場にはアーティストが、時計売り場には蒐集家(収集家)がいる

ハンズ渋谷店の園芸用品売場にはアーティストがいます。

木材の上に設置されたミニチュアツリーハウス。ハウスどうしをつなぐロープウェイ。子どもも、大人も見ていて楽しい。制作したのはツリーハウスアーティストの西田幸博氏。ハンズ三宮店(2020年12月に閉店)から声をかけられた後、全国のハンズに複数回出店しているとのこと(※3)。作品を見ていると、つい周辺の観葉植物や用品を買い、作りたくなってしまいます。

同店の腕時計売場には蒐集家(収集家)がいます。

販売するのは、カセットテープやラジカセです。TDKやmaxellなど懐かしいものから、歌手のミュージックテープ(※4)まで。出店しているのは、家電蒐集家の松崎順一氏。カセットテープは現在でも、週に200から300本売れるとのこと。そういわれると、一本買って手元に置いておきたくなります。

左:ツリーハウスアーティスト 西田幸博氏 右:家電蒐集家 松崎順一氏

こういった「楽しい」店の存在は、衝動買いを促します。新しいことを始めるきっかけにもなります。顧客層を拡大できる可能性があるのです。

しかし、楽しい店や人が、今のハンズではあまり機能していません。来店者が少ないからです。来店者がいないと、「人」の強みが活きないのです。

ハンズの弱みは「集客」

池袋店閉店。そして今回の買収報道。もっとも多かったのが、

「最近行ってなかったなぁ」

という声でした。

背景には、経済的・心理的に余裕が無くなったことがあります。趣味に勤しむ。マニアックなモノを集める。そういった余裕がなくなった。ハンズへの来店動機が弱くなってしまったようです。

一方、品質が良いものをなるべく安く買いたい。使う目的がはっきりしている。カインズのPB商品は、こういった層の来店を促します。

店に来てもらえればハンズの「人」の強みが活きます。ハンズの従業員・出店者たちから「楽しさ」が伝わる。ゆとりが出てくる。余計なモノかもしれないけど、楽しめるモノかもしれない。そんなモノを買っていく。

今回の買収では、カインズ・ハンズ間の人材の流動化やショールーミング対策など、頭の痛い課題が山積しています。ですが、まずは「来店」してもらうことです。

この買収が、衰退しつつある実店舗購入の復活につながることを願います。

【注釈】
※1ショールーミング
商品を店舗で確認した後、インターネット上のより安い価格の商品を購入すること

※2
その他、iF DESIGN AWARD、Red Dot Awardなどを海外でも受賞している

※3 Woody Factory 空知
今回の出店は2021年12月25日に終了

※4
音声を消去し、録音用として販売>