イタリア警察の捜査力と執念は凄い

イタリア警察の捜査力、犯人をどこまでも追跡するその執念は並大抵ではない。2014年以来、逃走中のマフィアがユーチューブ(You Tube)の有名な料理番組の動画に登場していたところ、警察官に逮捕された話はこの欄でも紹介したが、今回は2002年以来、同じく逃走中で行方不明のシチリアのマフィアをグーグル(Google)のストリートビューで見たイタリア捜査官が「彼だ!」と分かって2年間余りの慎重な調査後、昨年12月、スペイン警察と連携して逮捕したのだ。

イタリア国家警察(ウィキぺディアから)

前者はユーチューブの動画、後者はグーグルのインターネット地図で偶然、捜査官が長い間、行方を追っていたマフィアを見つけ出したのだ。前者は行方不明になって7年が経過している。両者ともラッキーだったともいえるが、捜査官が行方不明になったマフィアを必ず逮捕するという執念がなければ、幸運を引き寄せることはできない。後者の場合、行方不明から13年以上の年月を経ている。逃亡中のマフィアもその間、外貌を変えているだろう。にもかかわらず、イタリア捜査官が「彼だ」と識別した眼力は驚くべきものだ。

まず2件の事件を簡単に紹介する。2014年、オランダにコカインを密輸していた容疑で警察官に追及されていたイタリア・マフィアのンドランゲタ(Ndrang heta)メンバー、ビアルト容疑者(Marc Feren Claude Biart)はその直後、姿を消した。インターポール(国際刑事警察機構)が懸命にその行方を追ったが、捜査は迷宮入りの様相を深めていた。ところが、ひょんなことからマフィアの潜伏先が判明したのだ。その貴重な情報を提供したのは、なんとユーチューブの料理番組だった。

イタリア人のビアルト容疑者の趣味は料理で、イタリア料理を作る事が大好きだった。彼はドミニカ共和国に逃げ、そこで5年余り静かな潜伏生活を過ごしてきたが、時間があるので相棒の女性と共にユーチューブで料理の動画を流すことにした。もちろん、その動画で顔を見せるわけにはいかないから、料理する手だけを撮影して放映した。

ビアルト容疑者はユーチューブの評判がいいこともあって、料理番組に夢中になっていた。その矢先、イタリア警察は料理人となって潜伏中の彼を逮捕したのだ。動画ではマフィアは顔を見せていない。どうして警察側は身元を確認できたのかだ。その疑問を解くのはマフィアが手に彫っていた入れ墨だった。料理番組の動画では料理人の顔は映らないが、手は見える。その手に彫っていた入れ墨が映っていたのだ。そして、それに見覚えのある関係者がイタリア警察に連絡したことから、2014年から姿を消してきたビアルト容疑者の在処が分かり逮捕されたわけだ。入れ墨が事件の解決に大きな役割を果たしたのだ(「伊マフィアと入れ墨と料理の動画」2021年4月2日参考)。

次の事件では、イタリア捜査官はグーグルマップのストリートビュー画像を見て、行方不明のマフィアだと判断した。スペインのガラパガールの町で果物と野菜の屋台の前で食材を探している男がその行方を追っていたマフィアだと直感し、スペイン警察と連携をとって調査を進め、マフィアがマドリードに潜伏していることを掴んで、昨年12月17日、スペイン警察と連携して犯人を逮捕したのだ。

地元のローカル紙「ラ・レプッブリカ」によると、町にはシチリア料理を提供するレストランがあり、そのレストランはソーシャルネットワークにシェフの写真を投稿していた。あごの傷跡から、捜査官はそれが指名手配者であるとすぐに分かったという。マフィアは過去、殺人や麻薬密売などを行い、有名なコーザノストラ(Cosa Nostra)のカウンター組織であるシチリア・マフィア「スティッダ」(Stidda)に所属していた。彼は一時、逮捕されたが、2002年、ローマの悪名高い刑務所レビビアから逃走した。イタリアのメディアによれば、犯人は終身刑だったという。

犯人捜査で大きな役割を果たしたのはグーグルのストリートビューだ。当方にはこんな経験がある。ある時、息子が「パパがこんなところに写ってるよ」と言ってスクリーンショットを送ってきた。理髪店を探すためにグーグルのストリートビューを見ていたという。すると、緑色のリュックサックを背負ったアジア系男性が歩いている。「すぐパパだと分かったけど、偶然にしても余りにもおかしくて笑ったよ」という。当方はきっと近くの店で何かを買って帰るところだったのだろうが、写されているとは我知らず、だ。リュックサックの男はまさに当方だった。

だからイタリア警察が20年前に逃走したマフィアをグーグルのストリートビューで見つけたという話を読んだとき、今やどこにいても、いつ誰に見られているか分からない時代なのだと感じた次第だ。

奇しくも、2人のマフィアにとって、好きな「料理」が命とりとなった。イタリア人の人生哲学は「ドルチェ・ヴィータ」と呼ばれ、人生を楽しむことを大切にする。ビアルト容疑者の趣味は料理で、イタリア料理を作る事が大好きだった。別のマフィアはシチリア料理店を経営していた、といった具合だ。逃走中のマフィアたちは、捜査官の追及とともに、動画をアップしたり、ストリートビューに映り込むことを警戒し始めたことだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年1月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。