昨年のラ・パルマ島の火山噴火に見る復興の困難さ

ラ・パルマ島の火山噴火は終わったが、1345軒の一般住宅は溶岩の下敷きになったままだ。

ラパルマ火山の火山灰に覆われた家屋
出典:PUBLICO

噴火は85日続いた

9月19日から噴火を始めたスペイン・カナリア諸島のラ・パルマ島の火山クンブレ・ビエハ(Cumbre Vieja)の噴火活動が10日間停止しているということで昨年12月13日をもって噴火の終了が発表された。85日続いた噴火であった。

サンチェス首相は現地に8回も視察訪問をした。にも拘らず、彼が約束した政府からの支援金およそ4億ユーロ(480億円)の内の現地に届いたのは僅か1億3800万ユーロだ。しかも、この支援金は公共物の破損などに充てられるもので、一般の被災者に支給されるものではない。(2021年12月17日付「アンテナ3」から引用)。

首相は被災地を一度視察しただけで十分のはずで、何度も訪問するのが首相の仕事ではない。支援金の支給を被災者の為に早めるのが首相の仕事であるはず。それを怠っているのに8回も視察したということに、被災者の間では「何んの為の訪問だ」といって憤りを表明している被害者もいる。

3か月以上続いた今回の火山噴火は次のような結果をもたらした

溶岩流によって1218ヘクタールが覆われた。その影響で1676軒の建物が溶岩の下敷きとなった。その内の1345軒は一般住宅である。また3160人の遺体を納めている墓地も溶岩で墓の一部が覆われた。

同じく溶岩の下敷きになった栽培地域は370ヘクタール。その中でも同島のGDPの50%を占めているプラタノ(別名バナナ)が最大の損害を受けた。

因みに、プラタノとバナナは同一のものであるが、スペインではカナリア諸島で栽培されたものをプラタノと呼んでいる。バナナの方がカロリーが高く、カリュシュームとマグネシウムが豊富。それに対してプラタノはカリウムとリンが豊富とされている。価格はプラタノがバナナよりもほぼ2倍の価格だ。

地震は9081回発生。ラ・パルマ島の人口8万7000人の内の7000人余りが住み慣れた住居から離れて避難せねばならなかった。それも着の身着のままの避難で持ち出せるものはほんの僅かのものであった。

溜まった溶岩の体積は2億平米。溶岩流の最大の厚みは70メートルで、平均厚は12メートル。溶岩流の最大温度は1140度。

人にとって有毒となる二酸化硫黄は毎日5万トンが大気に放出されていた。

噴火の状況を詳細に把握するのに使用されたドローンは2800回の飛行を実施。また地震学者など528人の専門家が参加。

今回の噴火による被害総額はおよそ8億5000万ユーロ(1000億円)と推計されている。(12月25日付の「ABC」「ボスポプリ」から引用)。

家を無くした住民には州政府がマンションを支給

溶岩流によって家を無くした家族の為にカナリア州政府は最初100軒のマンションを用意した。

その1軒に住むことになった全身美容師のダビニア・ゴンサレスさんは9月28日に彼女の家が溶岩流の下敷きになった。それからひと月して彼女の両親の家と兄弟の家が同じ運命を辿った。彼女は「火山の噴火が終了してメディアでもこのニュースが重要でなくなった後の我々はどうなるのであろうか。それは悲劇で苦痛だ」と取材班に語った。ひと月前に新しい家の為の家具を購入したばかりだったそうだ。

そして彼女は「支援金?市役所から僅かの補助金が出た程度だ。政府からの支援金については期待していない。率直に言って、それを信じていないからだ」と語った。

チャンヘレスさんの場合、彼女は既に71歳だ。夫と一緒に生活していた。近くには5人の息子が住んでいた。彼らは全てを失った。「庭のあるこじんまりして家に住んでいた。すべて質素であったが、私は幸せだった。十分に満たされていたが、(今となっては)その価値を認めるまでには至らなかった」と彼女は泣きながら語った。(12月26日付「エル・パイス」から引用)。

持ち家を3軒を失った人もいる。住んでいた家を失って借金だけが残った人もいる。

住んでいた家が破壊されたことを証明するのに不動産登記謄本などを持ち出すように指示されたが、突然の避難でそれを持ち出すことができなかった人も多くいる。それができなかった場合には何か証明になるものを持ち出すようにということであった。電気料金請求書でそれを代用しようとしている人もいる。賠償金を支給されるには何か証明するものが必要なのである。

ところが、農園で納屋を仮設住宅として住んでいた人が多くいる。その方が畑が傍にあるので仕事がし易いからである。しかし、損賠賠償金を請求できるのは納屋として建造が許可されている最大25平米までで、住むのに拡張した部屋の損害については請求できない可能性がある。納屋を住宅にして生活することが自治令では認められていないからである。

370ヘクタールの栽培地域が破壊されたとあるが、その大半はプラタノを農園だ。それ以外にワインとアボガドも生産されている。特にワインの場合はイベリア半島のワインと比較して土壌が火山性のローム質で異質のワインと評価されている。

しかし何はさておき、島のGDPの50%はプラタノの栽培だ。350軒の生産農家が加盟しているサン・ファン・ボルカン協同組合が最大規模だ。島の人口の1割に相当する人がこの栽培に関係している。プラタノは植林から収穫を得るまでに1年半が必要ということで今回の損害は彼らにとって深刻だ。

出荷したプラタノが不良品として戻される厳しい現実

そのような不安な事情を抱えているにも拘わらず出荷したプラタノの返品が増えていることに生産業者は閉口している。火山灰によってプラタノの表面が傷ついたようになっているからだ。カナリア諸島プラタノ生産連盟の会長ドミンゴ・マルティン氏は「プラタノの見た目が悪いことに苦情を言う顧客がいるのはよくあることだ。しかし、生産業者に協力する為にも消費者の概念を変えるように指導することが必要だ。傷ついたような見た目だけで判断するのは止めてもらいたい」と取材に答えて、火山噴火で被害を受けているプラタノの生産業者が置かれている事情を理解してもらいたいといことだ。何しろ、100年に一度しか起きない状況に彼らは現在置かれているからである。(10月8日付「ABC」から引用)。