パンチがなかった岸田首相施政方針演説

通常国会の開催に際し、岸田首相が施政方針演説を行いました。地味な内容だったため、メディアでの露出は限定的です。日経の社説も無理に取り上げたような感じにとどまっているのは突っ込みどころがない成績優等生の答案ということかもしれません。

施政方針演説をする岸田内閣総理大臣
出典:首相官邸HP

岸田首相は世論調査では最新版が読売のもので66%と上昇、オミクロンが急拡大している中で菅前首相とは真逆の反応を示しているとしています。その理由を同紙は「先手先手で対策を講じていることが大きい」としています。つまり、いったん決めたものでもそのあと微調整するフレキシビリティを持たせた点が評価されているとしています。

私は菅氏が首相になってすぐに当ブログで「この政権は持たない」と申し上げたのは菅氏の頑固さが日々刻々変わる時代に不向きとすぐに察知したからです。菅氏の官房長官時代からのその仕事のやり方を知っている人ならば彼がどれだけ融通の利かない首相だったかお分かりになるでしょう。

その点、岸田首相はかなりタイプが違います。逆に言えば芯がどこにあるのか、どうしたいのかわからないともいえるのです。施政方針演説では全ての項目に於いてまるで選挙立候補の演説のような耳障りの良い、ペーパーテストをすれば95点取れる内容なのです。これではマスコミも何も書けないでしょう。私が当初から岸田政権は長期政権になる、と申し上げているのはそのあたりを考慮したものです。

さて、その演説のトップがコロナ対策でした。これは確かに重要なのですが、政府がやることと地方自治体がやることがバラバラであったり様々な専門家が相変わらず「心配症候群」の発言を繰り返しているため一種の洗脳が起きてしまっています。他国の動きと同じになると仮定するなら日本では1月末あたりにピークが来ると予想できます。それまでには1日10万人を超える程度まで感染者は増えるかもしれませんが、その後、一気に下がり、2月末には相当落ち着いてくる公算が強いとみています。

重症者もさほど増えておらず、慌てることはないとみています。既に英国やアメリカ、カナダではこれ以上の危機をあおることもないし、感染者の減少サイクルに入っているため、しっかり見届けるという状態になっています。よって、政府としてはブースター接種を着実に進め、経口剤などで対策をとり医療体制をしっかり整えておくという実務であって、厚労省マターにしてもよいぐらいだと思っています。

2番目に挙げた「新しい資本主義」では、首相は財政健全化、格差是正、新自由主義の行き過ぎへの反省、デジタル活用による地方活性化、人への投資、中間層の維持を盛り込みました。正直、これが全部できればノーベル賞もので、そんなうまい話はないと考えてよいでしょう。その中で首相の性格からすると財政健全化が一番踏み込むエリアではないかと思います。つまり、安倍/高市グループとは一線を画するとみています。

財政健全化を前面に掲げる心理の場合、思い切った投資はできません。なぜなら失敗が怖いからです。コロナ対策のような絶対必要なものには財政を投入しますが、岸田氏は経済の成長分野に投資を決めても小遣い程度に留まるとみています。私なら気候変動と異常気象が日常的に起きることを踏まえ、コンパクトシティの推進とメリハリあるインフラの整備があってしかるべきと考えます。

1年後には「新しい資本主義」なんていうぶち上げた看板を掲げなければよかったと本人は思うし、アベノミクスのような話題にもならないはずです。なぜなら「三本の矢」のような具体的プランもないのですから。

次いで気候変動問題ですが、これには私はある期待感があります。それは「日本式アプローチ」をアジア地区に展開し、欧米方式と差別化し、それが世界的に認知されるように売り込めるのではないか、と思っています。例えば自動車も何が何でもEVというのは欧米方式、日本はハイブリッドの良さを十分理解しています。アンモニアを使った新燃料の開発は日本が先頭を走っていると理解しています。また水資源や森林資源が豊富だという点ももう少しアピールしてもよいでしょう。

カーボンゼロは極めて耳障りがよく、政治家が一番飛びつく主題ですが、今年は必ずその反動が来ます。そしてより現実解を求めるための議論が進むでしょう。その時、日本方式の「第三のアプローチ」を世界に発信していくプレゼンターとなれるか、岸田首相の能力が問われます。ちなみに就任後すぐにグラスゴーで発表した岸田首相のCOP26のプレゼンは欧米では全く評価がなかったと理解しています。出席だけすればよいという外交ではだめです。岸田氏も外務大臣だったのですから外交のノウハウは十分ご存じでしょう。

ではその外交の部分の演説ですが、これがよくわからない、それが私の感想です。「新時代リアリズム外交」。誰がこの表現を作成したのか知りませんが、一言でピンとこないキャッチはそもそも失格です。演説を読む限り全方位外交です。その順番がアメリカ、オーストラリア、北朝鮮、インド太平洋、ASEAN、TPP、中国、ロシア、韓国となっています。これはちょっと違うと思います。好き嫌いで外交をするのではなく、重要度で捉えるべきです。そうなれば必然的にアメリカ、中国が先に来るわけで北朝鮮は韓国と並列でよいはずです。

その他の演説は短いし、内容も深くないので省きますが、一番最後に憲法改正を申し訳なさそうに挿入しています。文字数171字は少なすぎやしないか、と思いませんか? 熱意が伝わらないと思います。

今後は岸田カラーを出せるのか、これが肝ではないでしょうか?立憲民主党が新体制になり、どうもベクトルが定まらず、方向性も打ち出せていません。泉さんではまとめきれないかもしれないし、懸案の共産との関係の方向性も打ち出せていません。一方、中国寄りの公明党も支持率は厳しくなるとみており、勝者無き政党政治になりつつあるのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年1月19日の記事より転載させていただきました。