マックフライポテトに国産じゃがいもを使わない理由

関谷 信之

ポテトが足りない。

マクドナルドが「マックフライポテト」の販売をSサイズのみに限定しました。

理由は、ポテト材料の輸入遅延。カナダ・バンクーバー港近郊での大規模な水害とコロナの影響です。食べられないとなると、食べたくなるもの。

ポテトS一瞬で無くなったの無理すぎる

ポテトSはさみしいね

Sサイズは最弱すぎて食った気にならない

SNSでは「ポテトロス」「ポテト難民」などのハッシュタグで嘆く声も。

限定販売開始前日の12月23日、都内の各店舗には行列ができました。この光景、既視感がありませんか? そう、牛丼です。18年前、BSE騒ぎでアメリカ産牛肉が輸入停止になり、吉野家は牛丼販売を停止しました。このときによく似ています。当時の「牛丼ロス」「牛丼難民」も相当なものでした。販売停止前日には、店に行列もできました。停止後は、「香港まで食べに行った」などという話もありました。

今回は、仕入れについて、マクドナルドと吉野家をモデルに考えてみたいと思います。

マックフライポテト(筆者撮影)

品種と製造工程の変更が困難

輸入できないなら、国産のじゃがいもを使えばいいんじゃない? そう考える方も多いことでしょう。しかし、マクドナルドには、そうできない理由があります。マクドナルドはアメリカ出身の企業だから…ではありません。実際、主力商品のハンバーガーは、主にオーストラリア産の牛肉を使用しています。

理由は、じゃがいもの品種と製造工程の変更が困難だからです。

まず品種について。マックフライポテトに使われているじゃがいもは「ラセットバーバンク」。アメリカで古くから栽培されている品種です。特徴は大きいこと。そのままカットするだけで、フライドポテトの「尺」に丁度良いサイズになります。しかし、日本で栽培しても、気候の違いで大きく育ちません。そのため、輸入せざるを得ないのです。

次に、製造工程について。ポテトは、現地でカットし素揚げした冷凍加工品を輸入しています。これは、品質維持目的でもありますが、検疫対策でもあります。日本では、生じゃがいもは輸入できません。だから、加工品にしておく必要があるわけです。国産を使う場合、この製造ラインを国内で構築する必要があります。

品種と製造工程、両方の変更は現実的ではありません。

しかし、販売は継続したい。マックフライポテトは原価率10%といわれるほどの高利益率商品、いわば「稼ぎ頭」です。完全に販売停止すれば、セット商品の利益が低下してしまう。だったら、1か月間、Sサイズに限定販売し、現在の輸入量で凌ぐ。需要予測精度が高い、マクドナルドならではの判断でしょう。

フレッシュネスは国産ポテトで顧客奪取を図る

この機会を逃さず、顧客奪取を図っているのが、フレッシュネスバーガー(株式会社フレッシュネス 以下 フレッシュネス)です。

2022年1月14日より、「フライドポテト増量キャンペーン」を実施。従来の25%増しのポテトを提供しています。マクドナルドと逆に「増量」できるのは、国産じゃがいもを使っているからです。

じゃがいもの品種は、北海道産の「北海こがね」。特徴は、形状が長細いこと。揚げても変色しないこと。フライドポテトにはうってつけです。SNSなどで、

「“ポテト欲”を満たすフライドポテト増量キャンペーンを本日より開催中!期間限定にて 25%増量。国産ポテトを心ゆくまでどうぞ」

と、盛んにアピール。売上が前週比180%に達するなど、効果は上々のようです。

上:マクドナルドプレスリリースより 下:フレッシュネスバーガープレスリリースより

ミニストップは欧州産ポテトで客単価増を図る

ハンバーガーチェーンではありませんが、コンビニチェーンのミニストップ(ミニストップ株式会社 以下ミニストップ)も、ポテトを「増量」しています。人気商品「Xフライドポテト」の3倍の量が入った「バケツポテト」を2022年1月14日より発売。

使用するじゃがいもの品種は、欧州(主にドイツ)産の「アグリア」種。特徴は、細長いこと、そして、揚げると黄金色になること。美味しそうに見えるんですね。この品種も、フライドポテトに適しています。SNSでは、

ポテト難民の救い手

バケツ嬉しい

など歓迎する声がみられます。普通なら躊躇する大量のポテト。でも、「ポテトロス」の今なら、ためらわずに食べられるのかもしれません。

吉野家が牛丼販売をやめた理由

次に、この「ポテトロス」と酷似する、18年前の「牛丼ロス」現象を見てみましょう。

狂牛病(BSE)により、米国産牛肉が輸入できなくなったため、吉野家は、2004年2月に牛丼販売を停止します。当時の、吉野家牛丼ファンの喪失感は相当だったようです。販売最終日は数時間待ちの行列に。最後の一杯となった牛丼を食べる客は以下のように話していました

美味しいんですけど、(残念で)喉通らないです

販売停止は、輸入が再開される2006年まで2年以上にわたりました。なぜ、吉野家は、米国産牛肉にこだわったのか。理由は、価格と供給量にあります。

吉野家が牛丼に使用していたのは「ショートプレート」という部位です。特徴は、脂肪が多いため旨味があること。そして安いこと。他国の牛肉では味が変わってしまう、という点も問題でしたが、価格も大きな問題でした。国産は高価ですし、オーストラリア産も部位別取引ができないため、高くなる。現在の売価で提供することができなくなります。

供給量も問題でした。吉野家の年間ショートプレート使用量は、日本の総供給量をはるかに超える。オーストラリアでも、この量全てを調達することは困難。もし、調達できたとしても、需要の急増に伴い価格が急騰してしまう。結局、米国以外ではこの量はまかなえない。米国から仕入れられない以上、牛丼販売は停止、という判断に至ります。

当時を振り返り、吉野家ホールディングス会長 安部修仁氏は以下のように述べます。

「”牛丼なしでもやっていけることを証明しよう”というチャレンジをすることにしたのです」
(株式会社 吉野家ホールディングス会長 安部修仁氏 )
牛丼を出せなくても吉野家が黒字を確保できた「たったひとつの理由」 17年前のBSE騒動で起きたこと | PRESIDENT Online(2020/11/17)

競合の動きも「ポテトロス」と酷似

牛丼販売を停止し、新メニュー販売に注力する吉野家を尻目に、競合他社は、牛肉をオーストラリア産や中国産などに切り替え、牛丼販売を再開させます。松屋(株式会社松屋フーズホールディングス 以下 松屋)は、8か月後の2004年10月から。すき家(株式会社すき家 以下 すき家)は、7か月後の2004年9月から。

この効果は大きなものでした。吉野家が牛丼販売を停止(または時間限定販売)している期間に、すき家は店舗数を大幅に増加させ、2009年には吉野家を超えることとなります。

ブランドを守るため、販売停止を決断した吉野家。店舗数においては競合他社に遅れをとる結果となりました。今回のマクドナルドの判断は、どう影響するのでしょうか。

競合は1か月で新規顧客を獲得できるか

マクドナルドのポテトの「減量」に対し、「増量」策を採ったフレッシュネスとミニストップ。

フレッシュネスのポテトフライの特徴は、「皮つき」であること。そして、オリーブオイルを配合した油で揚げていること。すっきりとした、じゃがいもそのものの味が楽しめます。

左:フレッシュネスバーガー 右:ミニストップ

ミニストップのポテトフライの特徴は、ポテトの形状です。同社が「Xカット」と呼ぶ形状は、揚げる時油があたる面が多いため、全体がしっかり揚がります。冷めても美味しく食べられます。

両商品とも、マックフライポテトに劣るものではありません。一度、食べてもらえれば、継続購入が期待できそうです。両社とも「増量」開始したのは、マクドナルドの限定販売開始の、わずか5日後でした。対応の速さがうかがえます。

マックフライポテトのM・Lサイズ再開まで、おおよそ1か月。この短い期間で、両社は新規顧客を獲得できるでしょうか?

 

【参考文献】
吉野家(茂木 信太郎/著 生活情報センター)