一流起業家の「ケタ外れな行動力」の正体

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

極めて短期間にビジネスを成功裏に導く一流起業家。彼らを見ていると、本当に同じ人間なのかと思わされるほどの圧倒的な行動力を持っている。

koyu/iStock

筆者は起業したての頃、彼らとビジネス取引をする中で「なぜこれほどの行動力があるのか?きっとエネルギーに満ちあふれているのだろう」とぼんやりとした感覚を持っていた。

だが、自分でビジネスをする立場になって経験を経たことで、彼らの異常なほどの行動力の理由が分かってきた気がする。本稿ではその言語化に挑戦したい。結論から先に言えば、「Negative Capability(負の受容力)」という言葉で説明できると思っている。

Negative Capabilityとはなにか?

この言葉は、イギリスのロマン主義の詩人・ジョン・キーツ氏が生み出したとされる。シンプルに一言で定義を述べるなら「不確実性、不透明性に耐える力」ということだ。

人間は不確実性の高いものに強いストレスを受ける性質がある。コロナ禍において、多くの人が強いストレスや不安を抱えて、イライラしてしまうのはまさしくこの機能性によるものだ。

もっと身近な例でいえば、早く結婚したいと思っている女性が、結婚時期をハッキリさせない男性にイライラしてしまうケースがあげられるだろう。また、英会話スクールに通っている人が、「一体、自分はいつ頃に英語ができるようになるのか?」と強い不安やイライラを覚えるのもここから来ている。

一流の起業家やビジネスマンは、このNegative Capabilityの受容度が非常に高い。彼らの行動力の高さはこれで説明できる。

行動力がヤバい人の思考回路

世の中にはすさまじい行動力の持ち主がいる。彼らとコミュニケーションをして感じるのは、「まずやる。後は走りながら考える」という思考で共通しているということだ。

行動する前から「自分にはできるか?できないか?」ということを悩まない。実際にやってみないとわからないことは多いからだ。過去に飲み会の場で、自分が相手の社長に思いつきの意見を述べたら「それいいね」といって、翌朝から即実践していた。

一般的には「うまくいくかどうか?」と厳密に考えてやるかどうかを決断するところだろうが、彼らはやる前にはあまりそれは考えない。よしんば、大成功しなくても失敗経験から学びが得られ、次につながることを体感的に分かっているからだろう。

「成功」は保証されていないが、「成長」は約束されているのだ。得しかしないならやってみる、という考えなのだろう。

Negative Capabilityは若い間に身に着けろ

このNegative Capabilityは「ビジネス経験が豊富なミドル層が身につけることで、抽象度の高いビジネス課題を解決するのに有用だ」と主張する人もいる。確かに会社員のビジネスキャリアを考える上では、この主張は正しい。もとい、ミドル層のビジネスマンはこの能力の正体こそがマネジメント力であり、労働市場で生き残るための必携スキルと言える。

その一方で、筆者は違った視点も持っている。Negative Capabilityは若い時期に持っていることが圧倒的に有利に働き、人生は肯定的に動いていくと考えるのだ。

人間は若い時期の方がリスクを取りやすい。20代で起業して失敗しても、いくらでもやり直す時間は残されている。体力も気力も充実しており、独身の立場なら明日から海外に出ていくような大胆な行動も許される。

中高年からの起業が若者より不利な理由

だが、40代、50代で既婚して子供がいる立場だと、否応なしにハンディキャップを抱えることになる。よく言われるのは「中高年はビジネス経験が豊富なのでむしろ有利だ」と言う人がいるが、会社員時代のビジネスキャリアは起業した後の立場で有利にワークするものもある一方で、役に立たないものも少なくない。最終的に起業するなら、やはり一日でも早いほうが有利だと思うのだ。

筆者は30歳くらいの時期に働きながら起業したいと目標を持ち、がむしゃらに働いた。毎朝5時に起きて出社までの時間、電車の移動中、会社の休憩時間、帰宅後など空いているすべての時間を起業活動にあてた。不器用で要領が悪いので、ビジネスが軌道に乗るまで時間がかかった。だが、なんとか専業経営者として独立できた。

しかし、今の立場だったらどうだろう。今の自分は二人の子供を抱えて、妻も自分のビジネスを持って忙しい。今、あの時のように働けるか?と問われれば、答えはNOだ。まずは絶対的な物理的な時間が不足している。子供の世話や家事をやっているので、ビジネスに割ける時間は起業時期の半分ほどになった。土日は平日とは比べ物にならないほど忙しく、できることはメールの問い合わせ返信くらいだ。もちろん、ビジネススキルや知識は当時とは比べ物にならないほどついたが、それでも時間の不足は絶対的な壁となり得る。

人生は何歳からでもやり直せるし、それを否定するつもりもない。だが、若いうちが有利という絶対的事実は存在するだろう。

 ◇

Negative Capabilityは、生まれつきの才能ではなく後天的に獲得できる能力だと思っている。たくさんの失敗を重ねながら改善を繰り返し、成功裏に導くことで絶対的自信が育ち、その結果得ることができるスキルだ。「とりあえずやってみる」という思考には、失敗してもへこたれないメンタルの醸成が不可欠であり、それには圧倒的な試行回数と改善が盤石な土台として必要なのである。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。