人事は給与や待遇にこだわる人材を採用しなさい

黒坂 岳央

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

先日、「給与や待遇にこだわりのある人とは働きたくない」とベンチャーの人事担当SNS投稿が炎上してニュースになった。炎上の燃料になり得る要素が複数含まれていたことで、これほどまでに燃え上がる事態になってしまった。

この件を受け、これまで複数回転職をしてきた立場かつ、現在は経営者として採用やクラウドソーシングで外注をする筆者から見て、就職や転職を考えている人には「給与や待遇にはこだわりなさい」と伝え、人事にはそうした人材を採用基準にするのは悪くないのでは?と提案したい。持論の根拠を下記の通り述べていく。

fatido/iStock

仕事に求める「お金や待遇以外」の価値

仕事に求める要素は「お金」「待遇」だけではない。働く上でスキルアップができるとか、人間関係の良好さなど様々な要素が絡んでくる。

よく「ベンチャーか?大企業か?」みたいな話があるが、この議論はその人が何を望んでいるのかにもよるため、結論が出ないテーマだと思っている。たとえば、将来的に起業を考えていて「お金や情報などの流れ全体を学びたい。とにかく手を上げてバンバン挑戦して経験を積みたい」という人物なら、どちらかといえばベンチャーが良いだろうし、プロとして長期的なキャリアを見据えるビジネスマンなら大企業でのキャリアもあり得る。

筆者は過去に何度か転職をして来たが、その際に自分の市場価値を常に意識していた。「この仕事を通じてスキルと経験を積むことができれば、次に転職する時に強力な武器となってくれそうだ」という具合である。

具体的にいえば、英語で会計専門領域の仕事をして、日本の決算書を米国会計基準に変換したり、連結決算業務に携わったり、外資系だったので海外本社の新システムを全社に導入するという経験をした。こうした経験は次の転職でも活かすことを意識し、仕事をしてきたつもりだ。あいにく、その後は起業して別領域のビジネスをしているので活用することはなかったが、仮に転職することになっていたとしてもきっとスキルや経験は転職で役に立ってくれたはずだ。

仕事をする上では、お金や待遇以外の要素も当然意識するべきだろう。これらは応募者側の都合ばかりな話に聞こえるかもしれないが、キャリアアップを意識して真剣に仕事に打ち込んでもらえるなら、採用する企業側にもメリットが生まれる。いわゆるWin-Winの関係と言えるだろう。

お金や待遇はこだわるべき

もちろん就活や転職はキャリアはお金や待遇だけでなく、総合的にみて決断をするべきだと思っている。しかし、それでも給与や待遇にはこだわるべきだろう。

これはあくまで、個人的な独断と偏見による意見でしかないのだが、給与が待遇の優れた企業ほど人間関係や仕事内容等、その他の要素もポジティブな傾向があると考えているためだ。

実際、年収の高い企業ほど、優秀な経歴を持った人材が集まる傾向がある。そうした人材は上昇志向があったり、人柄に問題がある人は少ない傾向があるといえる。また、給与や待遇が良い企業は、企業収益性が高く、人材に利益を振り分けている現れであり、結果としてそこで働いている従業員も会社に満足するのではないだろうか。

また、「大企業は末端の作業しか経験できない」という人もいるが、そうとは言い切れない。大企業だからこそ、ダイナミックな大きい仕事や専門性の深い仕事を経験できるケースもあるし、筆者は実際にそれを体験できた。もちろん、ベンチャーでも給与の高い会社はあるし、人によって向き不向きはある。

応募する企業の規模が大企業でもベンチャーでも、相手の差し出す年収や待遇はなるべく良いに越したことはないだろう。その逆に、あえて待遇の良くない環境に飛び込むことから生まれるメリットは、最大公約数的に考えて否定されると思っている(あくまで傾向としての話で、待遇の優れない創業時の企業に飛び込むケースなどは例外だ)。

希望通りの相応の人物になればいい

会社の人事担当としては「お金や待遇など、自分のメリットばかり意識するのはダメだ。企業理念などに共感して一緒に働きたくなるような人が来てほしい」と思うかもしれない。

確かにスキルも人格もなく、待遇ばかり求める社員は勘弁してもらいたいという気持ちは生まれるかもしれない。「スキルも経験も乏しいのに、待遇ばかり求めるのは高望み」と感じる人事担当がいても不思議ではない。だが、それなら高望みにならなければ問題はないはずだ。

企業が人を採用するときは、提示する年収と同等かそれ以上のパフォーマンスを期待する。当然だ。大事なのは支払う給与以上のパフォーマンスを出せる人材になることである。それならシンプルに、受け取る給与以上にパフォーマンスを出せばいいだけの話だ。そうなれば、相応の待遇を要求されても、企業としては高望みにも不満にも感じないはずである。

筆者は経営者の立場として、人事採用やクラウドソーシングで外注をしてきた。その経験からいえば「仕事は何でもやります。お金にはこだわりません」という人材より「このくらいやるから、報酬はしっかり出してほしい」という人材の方が、仕事のパフォーマンスが高かった感覚がある。「それなりの報酬は求めるけど、パフォーマンスもしっかり出す」という意思表示は、自分の仕事の自信の現れであり、自分を客観視して市場価値を冷静に算出出来ているとも取れる。

以上のことから、少なくとも自分自身の体験的にいえば、給与や待遇にこだわるのは悪くないと思うのだ。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。