欧州の首都はどこか:神聖ローマ帝国からEUまで

八幡 和郎

ヨーロッパの首都というのは、どこを指すのがふさわしいのか。もちろん、「みやこ」というならパリかもしれないが、「首都」とはいえない。

やはり首都というと、中世の神聖ローマ帝国か現代のEUのそれではないか。今回出版した『世界史が面白くなる首都誕生の謎 』(知恵の森文庫)では、そのあたりについても詳しく論じたので、それを短く要約して紹介しておく。

西ローマ帝国滅亡(467年)のあと西ヨーロッパを統一したのはメロビング朝フランク王国のクロービス王で、カロリング朝のカール大帝(シャルルマーニュ)は、800年にローマ教皇から西方の皇帝として戴冠された。

この帝国はやがて三分割されたが、東フランク王が中フランク王国のほとんども勢力下に置いて神聖ローマ帝国(サクラム・ロマニウム・インペリウム)の皇帝を名乗った。

しかし、封建諸侯の連合体で、世襲でなく皇帝は選挙で選ばれていたので、この帝国の首都がどこであったかと特定することは難しいのである。

14世紀にしばしば皇帝を出したのがルクセンブルク家で、もともルクセンブルク領主だったが、ボヘミア(チェコ)王の地位も獲得してここにいることが多かった。とくにカール四世は名君で、プラハはたかも帝国の首都のように栄た。

しかし、もし不完全でも帝国の首都らしい都市があったとすれば、アーヘン、ついでフランクフルト(正式にはフランクフルト・アムマイン)だ。カール大帝の宮廷の故地はアーヘンで、戴冠式はフェルディナント2世までここで行われた。

一方、フランクフルトでは、1152年のフリードリッヒ・バルバロッサ以来、24人の皇帝がここで選出され、1356年のカール4世による『金印勅書』により皇帝選出の地と確定し、1562年マキシミリアン2世からは戴冠式もここに移った(ただし、帝国議会は南西部のレーゲンスブルクという町で開催されていた)。

「マインハッタン」とも呼ばれるフランクフルトのスカイライン(2019年)
出典:Wikipedia

第二次世界大戦では、連合軍の爆撃で古い町並みは完全に失われ、戦後は復元されることなく「マインハッタン」と呼ばれたりする現代都市になった。マイン川対岸から見る高層ビル群はこの町でもっとも魅力的な風景であるが、アルトシュタットには、戴冠式が行われたカイザー・ドーム、国民議会が開かれたパウルス教会、ゲーテの生家などがあるが、戦災で大きな被害を受けたこともあって歴史的雰囲気はあまりない。

【グルメ】
フランクフルト・ソーセージは豚の腸につめた大きめのもので、本来のウィンナーは羊の腸につめた小さめのもの。ミュンヘンの白いソーセージ「ヴァイスヴルスト」とか「ニュルンベルガー」という小型で羊の腸に詰めマジョラムという香草を入れたものも人気がある。

EU(連合)には本部はないが、事務局はブリュッセル(ベルギー)、議会はストラスブール(フランス)、裁判所はルクセンブルク、中央銀行はフランクフルト(ドイツ)と、ライン渓谷に沿い、ラテン語圏とゲルマン語圏の境界地域に集中している。これは、だいたいカトリックとプロテスタントの境界でもある。

ベルギーでは地方ごとにフランス語かフラマン語かどちらかが公用語になっているが、首都ブリュッセル(オランダ語:ブリュソル)だけは両言語の中立地帯だ。ブリュッセルはセンヌ渓谷の沼地だったが、交通が便利だったので開発され、1383年にブラバント公国の宮廷が置かれ、ベルギーがオランダから独立したときに首都となった。

EU事務局がここに置かれ、NATOの本部も市内北部にある。ロンドンを含む各地とは空路のほか高速鉄道網で結ばれ、TGVはパリ・ドゴール空港と1時間40分、議会があるストラスブールまで3時間40分で結ばれている。

市内でもっとも知られる名所は市庁舎もあるグラン・プラスで世界で最も美しい広場のひとつ。近くに、「小便小僧の像」がある。この町には、アール・ヌーヴォー様式の建物が多いが、「建築家ヴィクトル・オルタの主な都市邸宅群」が世界遺産になっている。

欧州議会があるのは、ストラスブール。アルザス州の首都である。中世にあっては神聖ローマ帝国の自由都市でグーテンベルクが印刷術を発明したとも言う。1697年にルイ14世によってフランスに併合されたが、その後もゲーテがここの大学で学んでいる。

グーテンベルクの彫像がある広場
出典:Wikipedia

フランス革命時には国歌ラ・マルセイエーズがここで生まれたが、普仏戦争と第1次世界大戦の間の半世紀はドイツ帝国直轄領だった。バラ色一本だけの尖塔が聳えるカテドラルや、水辺のプティット・フランスの町並み、クリスマス市など人気がある。

ルクセンブルク(仏語:リュクサンブール)は三方を谷に囲まれた要塞都市で、ここに発したルクセンブルク家は神聖ローマ皇帝にもなった。現大公家はオランダ王家の分家だが、男系でいうとブルボン家で、かつ、ルクセンブルク家の血も引く。税関が安いので、金融センターとしても栄えている。

ただし、EUではさまざまな機関をヨーロッパ各国の都市に分散させている。たとえば、環境機関はコペンハーゲン、食品安全機関はイタリアのパルマと言った具合だ。

【グルメ】
美食の町としても定評があり、フレンチ・ポテトは、世界文化遺産にまで登録されている。二度揚げすることと、牛の脂を使うことがポイントである。また、ムール貝の白ワイン蒸し、濁り酒のようなベルギー・ビール、ゴディバまど有名ブランドが多いチョコレートなど。ストラスブールは、ガチョウのフォワグラやシュクルートが名物。