中小企業のEXIT方法を考えてみる

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最近、デービット・アトキンソンさんの中小企業の生産性について、意見を目にすることがありました。「生産性の低い企業は市場から退場してもらい、生産性の高い企業をふやさなければならない」といったような内容だったと思います。

私も生産性が高い企業が生き残るべきと思います。ですが、中小企業経営者側から見ると退場したくてもできない事情もあります。私も社員を持つ中小企業経営者でしたし、今もフリーランスとして多くの方とお付き合いしています。ですので、現場感覚から生産性が高くならないボトルネックをご説明します。

EXITを妨げる要因は連帯保証と再出発

まず大前提として、黒字の中小企業はEXITが容易です。M&Aは引く手あまたですから、売却して、その資金を元手に新たに起業することもできます。また、他の企業の役員などにもなれるでしょうから、再出発も容易です。いわゆる生産性の高い企業に当たるかと思います。

問題は生産性が低い企業です。主に赤字の企業ということになりますが、EXITを妨げている理由は大きく2つです。一つが融資、特に代表者の連帯保証です。毎月返済が必要ですから、事業を回して返済資金を確保しなければ、すぐさま倒産してしまうでしょう。もし借金がない、連帯保証がないのであればM&Aもやりやすくなります。実際に、私も企業売却を考えていたことがありますが、融資について肩代わりしていいという買い手は皆無でした。

ではM&Aできないなら、中小企業経営者にとってどのようなEXITがあるのでしょうか。大きく2つの方法が考えられます。

  1. 代表権を子どもに継承する
  2. 倒産、自己破産する

子どもも自分の人生です。赤字の企業を継承したいという子どもは多くないでしょう。事業承継が進まない理由の一つも、この生産性の問題に帰結するのかもしれません。

もう一つが倒産ですが、これは経営者の自己破産とセットです。倒産、自己破産してしまえば信用が一気になくなりますし、新しい事業の再出発が難しくなります。就職するにしても、雇用保険に入っていませんから、就職支援も乏しい状況です。だから、元社長でホームレスになる人も多くいます。

このように、経営者としては赤字だけれども、お金が回ってなんとか生活できているという今の状況を長く続けるしか無いのです。いわゆる「リビングデッド(生ける屍)」となっている企業が半数以上存在すると言われるのは、このように経営者のEXITが難しい理由が現場からもわかります。

EXITしやすくするためにボトルネックの解消を

上記のように、生産性の低い企業の経営者にはEXITしたくてもできない理由がありますであれば、生産性が低い企業を淘汰していくためにも、経営者がEXITしやすくすること、そしてその後の再出発をしやすくすることが大事です。経営者のEXITのためには融資、特に連帯保証をなんとかすること。そして経営者を離れた時に再度事業を行えたり、就職したりできるような支援が必要です。

連帯保証については金融機関が解除するか、国やそれに準ずる機関がその肩代わりをするしか方法はありません。代表取締役を辞任し、その後別の経営者に代表権を譲り、そ再建計画を外部機関の支援によって建てることで、国が連帯保証を肩代わりするなどの仕組みを作れるなら、利用する経営者はそれなりにいると思います。

経営者をやめる手段が倒産、自己破産しか無い今は再出発が難しいでしょう。ただ、連帯保証が解除されるのであれば再出発は容易になります。また事業をもう一度行う以外にも、職業訓練などで就職するという道も一つ作っておく必要があります。経営者を諦め、社員になるという道も作っておけばEXITしやすくなるのではないでしょうか。

所有と経営の分離を進めよう

上記で経営者がEXITしにくい理由と具体的なボトルネック解消に関して、私が現場で感じたことを記述しましたが、これは日本に多く存在するオーナー経営者に向けたものです。オーナー経営者、つまり会社の所有者であり経営者という状態だからこそ、EXITしにくいのです。

もし経営だけを行う経営者であれば、株主総会でクビになるだけです。すぐに他の企業の経営をすることもできますし、一社員として就職活動を行うことも可能です。いわゆるプロ経営者というのはこのように流動的です。オーナーであれば株式が紙くずになるだけです。

おそらくデービット・アトキンソンさんの言う生産性が低い中小企業の多くはオーナー経営者ではないかと思われます。オーナー経営者から、所有と経営の分離を進めていければ、生産性の低い経営者は退場しやすくなるでしょう。そうすればより生産性の高い企業を生み出せる経営者に企業を任せることができます。

ただ、そのための道のりはかなり長いでしょうから、まずは今の企業経営者がEXITしやすくするところから、初められたらと思います。