ロシアの軍事侵攻と竹島の日と猫の日と

潮 匡人

やはり、ウクライナへの軍事侵攻が始まった。アメリカのバイデン大統領は、ロシアがウクライナ東部の親ロシア派支配地域に軍を送る準備を整えている現状を、「ロシアによる侵攻の始まりだ」と非難した。今月上旬、アゴラに掲載された拙稿で懸念したとおりの展開である。

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ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州の一部地域は、もともと親ロシア派の武装勢力が占拠している。地政学的にもロシアと国境を接し、歴史的にも経済的にもロシアとつながりが深く、ロシア語を母国語とする住民が多い。

ロシアのプーチン大統領は、これらウクライナ東部の親ロシア派が事実上支配している地域の独立を一方的に承認したうえで、「平和維持」を名目にロシア軍の現地への派遣を指示した。

以上の衝撃的なニュースが飛び込んできたのは、日本時間で2月22日の早朝。

だが、テレビ東京など一部のメディアを除き、マスメディアの反応は鈍かった。NHK以下、多くのメディアが朝から猫の話題を取り上げた。この日が「猫の日」(猫と一緒に暮らせる幸せに感謝し、猫とともにこの喜びをかみしめる記念日)だったからである。

言うまでもなく、猫の鳴き声の「にゃん」との語呂合わせであり、本来、特別な意義はない。今年が2022年という事情があったとはいえ、後世、第三次世界大戦の始まりと記録されるかもしれない日に、公共の電波で繰り返し垂れ流すような話題なのだろうか。

この日は「竹島の日」にも当たる。ご存知のとおり、竹島は歴史的にも、国際法的にも、日本の島根県に属する我が国固有の領土である。

にもかかわらず、韓国が不法占拠を続けているため、島根県が「竹島の日」を制定し、領土権の確立を目指してきた。「竹島の日」は1905年(明治38年)2月22日の閣議決定に基づき、竹島を島根県の所管とする旨を島根県知事が公示したことにちなむ。

だが、以上の歴史的経緯や今日的意義に触れたメディアは少ない。

ウクライナ情勢で一色となった欧米の主要メディアと異なり、日本のテレビは、この日、バラエティ番組などで、ほぼ埋め尽くされた。報道情報番組ですら、猫の映像で溢れた。

突然、早朝に飛び込んできたニュースであり、準備や用意が間に合わなかった等々の事情もあろう。

とはいえ、岸田文雄総理が会見で述べたとおり、今回のロシアの行為は、「明らかにウクライナの主権、領土の一体性を侵害し、国際法に違反する」。看過できない重大なニュースであろう。

「猫の日」の話題を垂れ流す暇はあったのだ。せめて、同じく事前に準備できた「竹島の日」の話題を流すべきだったのではないだろうか。

竹島と絡めて、「主権、領土の一体性」の重要性や、国際法の意義を伝えるべき絶好の機会だったが、むなしく一日が過ぎた。

もとより、いちばん悪いのはロシアのプーチンである。ただし、バイデン大統領の責任も重い。良くも悪くも、軍事力の行使にきわめて慎重なバイデンの姿勢が、事態をここまで悪化させた。

ロシアの身勝手な主張を代弁してした日本の一部保守派や、彼らを重用するメディアは、もはや論外である(前回拙稿参照)。とはいえ、問題は一部の番組にとどまらない。

あの日、猫の映像を垂れ流した多くのメディアに、今後ウクライナ情勢を語る資格があるだろうか。少なくともバイデン政権を責める資格は微塵もあるまい。