朝日新聞「HPVワクチンの積極的勧奨が再開、症状について医療者側の理解が進んでいる」

どういう意味なのか?

朝日新聞「HPVワクチン積極的勧奨再開、医療者側の理解が進む」

朝日新聞が厚生労働省によるHPVワクチンの積極的勧奨の再開に関し、接種後に報告されたような愁訴の「多様な症状」について、「医療者側の理解が進んでいる」と書いています。

従前の朝日新聞の態度からすると、まるで医療者側に問題があったとしたいような雰囲気を感じてしまいます。

朝日新聞がHPVワクチン接種減で死亡者増加の論文を報じるも「健康被害を訴える人が相次ぎ」とだけ記述|Nathan(ねーさん)|note

マスメディアの「重篤な副反応」ワクチン忌避報道と積極的勧奨の停止

Trends of Media Coverage on Human Papillomavirus Vaccination in Japanese Newspapers
A sensational case report shaped the tone of negative media coverage on human papillomavirus vaccination and this trend was not altered by scientific state

厚労省のHPVワクチン積極的勧奨の停止の理由は、マスメディアが「重篤な副反応」として大々的に報じたワクチン忌避報道が原因です。

この論文では朝日新聞の報道が発端となったことが示されています。

この論文の中身の簡単な紹介・解説は以下でどうぞ。

朝日新聞がHPVワクチンを否定する論調の発端だとする論文|Nathan(ねーさん)|note

当の朝日新聞は、WEB上の記事を1か月後には削除していました。紙面での扱いもスクープというものではありませんでした。

森尾友宏厚労省部会長の発言「医療者側が意識」と新論文

9年ぶりHPVワクチン勧奨再開 接種後の症状、医療者側の理解進む:朝日新聞デジタル

9年前の違い、医療者の理解進む
「ワクチンを接種したかどうかにかかわらず、体の反応として全身の痛みが起こることを医療者側が意識するようになった。そこが9年前との大きな違いだ」。厚労省の副反応検討部会長を務める森尾友宏・東京医科歯科大教授(小児科)は、研究班の報告についてそう話す。

部会は昨年11月、積極的勧奨の再開を決めた。多様な症状に対し、ものごとのとらえ方を変え、行動を変えていく「認知行動療法」によって、一定の改善効果があることもわかった。

一方、こうしたことがわかるまでに時間を要し、多様な症状を訴える人に対し、9年前には適切な医療を提供できなかった。これを教訓とし、医療者側は多様な症状や対策について勉強会などで学んできたという。

森尾友宏厚労省部会長の発言の「ワクチンを接種したかどうかにかかわらず、体の反応として全身の痛みが起こることを医療者側が意識するようになった」が「医療者側の理解が進んだ」の元となっているようです。

朝日新聞は他の記事で森尾氏へのインタビュー記事をUPしています。

HPVワクチン勧奨再開、9年の間にあった議論 厚労省部会長に聞く:朝日新聞デジタル

部会で深まった三つの議論
――勧奨再開に至った経緯を教えてください。

ここ数年で大きく三つの点で議論が深まりました。

一つ目は、有効性や安全性に関する論文が国内外から報告され、まとまったデータとして示せるようになったこと。二つ目は、市民に対して正確な情報提供が進んだこと。三つ目は、多様な症状が出た後の認知行動療法などについて、多くの医療機関で理解が深まったことです。

 ――一つ目の有効性や安全性については、どこまで証明されていますか。

20年にスウェーデンからHPVワクチンが子宮頸(けい)がんを抑えるという結果が報告されました。それまでは、がんになる前の段階の病変を減らすという報告はありましたが、がんそのものも抑えるということがわかりました。デンマークや英国でも同様の結果が報告されています。

安全性についても、接種後の長期疲労や、免疫が誤って自分を攻撃してしまう自己免疫疾患が多いのではないか、という指摘がありましたが、関連性がないという論文が海外から出ています。

大阪大の祖父江友孝教授を班長とした厚労省研究班が国内の疫学調査をしました。ワクチンを接種していない人でも全身の痛みや多様な症状を訴える人がいるというデータを報告し、論文になっています。

2013年当時から、HPVワクチンの接種後の重篤な副反応と騒がれているものは因果関係のあるものではなく、政策として積極的勧奨をするものとしての安全性には問題が無い、という医療従事者の指摘が多かったですが、それをさらに補強ないし別の観点から支持する高レベルエビデンスが揃ってきた、ということです。

祖父江らのワクチン非接種者らの種々の症状の研究や名古屋スタディ

既に、いわゆる「名古屋スタディ」と呼ばれる大規模調査論文が2018年に示されていました。

No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study
Sadao Suzuki⁎ and Akihiro Hosono

(論文タイトル和訳:日本の若い女性におけるHPVワクチンと報告されたワクチン接種後の症状との間に関連性はない:名古屋研究の結果)

また、祖父江友孝教授らの論文というのは以下です。朝日新聞の記事では、尾身茂氏の祖父江氏への助言で研究が始まったとする内容がありました。

A Nationwide Epidemiological Survey of Adolescent Patients With Diverse Symptoms Similar to Those Following Human Papillomavirus Vaccination: Background Prevalence and Incidence for Considering Vaccine Safety in Japan

この中でも、以下指摘されています。

Safety of HPV vaccines is well documented by numerous studies that compared vaccinated and unvaccinated individuals and targeted well-known reactions or diseases that were already recognized in medical practice.

HPVワクチン接種の安全性は、既存の医療現場でよく知られていた反応と疾病を対象とした接種者と非接種者を比較した膨大な研究によって十分に証明されています。

ただ、「ワクチン接種後の種々の症状」が、接種しない人の間でも共通して発生するものなのかどうかという点についての研究が貧弱であったため、それを明らかにするために本研究を行ったとしています。

まとめ:「医療者側の理解が進んでいる」は事実だが…

「医療者側の理解が進んでいる」は事実ですが、それは「HPVワクチンの安全性がようやく明らかになった」という意味では無く、それを前提として、さらなる効果や付随する医学事象に関する高レベルエビデンスが出てきた、ということだというのが分かりました。

それによって医療現場において、ワクチン接種を受けた者が訴える症状に対する適切な対応や処置が可能になった、という意味と捉えることが可能でしょう。

しかし、朝日新聞記事では「安全性評価、尾身氏の助言が鍵」などと書いてましたし、朝日新聞(株式を有しているテレビ朝日も)は新型コロナワクチンに関しても不穏な報道を繰り返してきましたから、既存の読者にとってはどう映ったでしょうか…。


編集部より:この記事は、Nathan氏のブログ「事実を整える」 2022年4月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。