ウクライナの地下要塞を見て思う安全保障感覚の大差

政府はシェルターの有無を示せ

ブログ「首相官邸に緊急事態に備えた地下シェルターはあるかーウクライナ戦争からの教訓」(4/14)を書きましたら、19日に「マリウポリ抗戦/製鉄所に地下要塞」(読売新聞)という記事が掲載されました。

スイスの地下要塞

マリウポリの市長顧問がSNSに地下施設の見取り図を投稿し、「戦闘は難しくなり、ロシア軍は地下施設を破壊するために、大きな威力の爆弾を使うことになろう」との書き込みがあったそうです。つまり堅固な要塞なので、破壊するには核兵器などを使うかもしれないとの警報なのでしょうか。

一方、親露派幹部が「地下には大きな空間が広がっており、通路やトンネルが掘られている。市内にも同じような地下施設があり、製鉄所の施設と地下通路でつながっている」と語っていると、記事にあります。ソ連時代に建設したので、露軍は内部の状況に通じているのでしょう。

ロシアのウクライナ侵略の報道に接し、核兵器の使用まで示唆されるに及んで、「日本は大丈夫か」と心配になります。隣国にはミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮があり、さらロシアは北方領土に軍事基地を設けています。

国際政治・軍事情勢はウクライナ戦争で一変しました。「まさか核兵器は使うことはないだろう」「まさかミサイルを撃ち込まれることはないだろう」という「まさか、まさか」ですまされなくなってきている。

その「まさか」に備えて、日本は安全保障上の防御体制を強化すべきです。非常事態の時には、官邸機能や防衛司令機能を地下施設に移せるようにしておく。「まさか」をちらつかされ、動じるようでは足元を見られる。

日本に核攻撃、ミサイル攻撃にも耐えうる地下施設があるかどうか、政府の正式な説明を聞いたことはありません。国会論戦でも、議論になったことはないでしょう。恐らく地下要塞、地下シェルターはないのでしょう。

あったならば、隠す必要はないからです。むしろ防御は堅固であることを対外に示しておくことが抑止力になる。いわないところをみると、ないのでしょう。詳細は伏せて、「あるならある」、「ないならない」を国民に明確に示す義務が政府にはある。ないならどうするかを語る必要もある。

首相官邸の地下1階には、官邸危機管理センターがあり、緊急事態発生時の中枢機能を果たすという。前回、指摘したように、震災・災害対策用とみられ、大規模な空爆を受ければ、地上部分もろとも破壊されるに違いない。

マリウポリの地下要塞は、検査・診療所、園芸場(食料対策か)、居住空間、機械システムなどに区分され、現在、1000人の兵士がこもっているそうです。ここを破壊しても、地下通路で移動するルートもある。

ソ連時代に核戦争に備えて建設された。同じような要塞、シェルターはロシア各地にあるのでしょう。米国にはコロラド州のシャイアン・マウンテンの地下に北米航空宇宙防衛司令部があり、核攻撃にも耐えられる。

中国は、海南島に極秘の地下基地があり、戦略的原潜、空母打撃群も配備されているそうだ。韓国は半島を分断する非武装地帯に沿って、通信網を備えた地下シェルターがある。検索すればある程度は分かります。

スイスの地下要塞(写真)はヒットラーの侵攻に備えた戦略的要塞で、政府や軍司令部が潜伏でき、20世紀後半まで使用されたとか。将校の仕事部屋、兵士の宿泊所、食堂、医療室もあり、非常事態になれば、再使用できるのでしょう。

政府・与党は有事の際の非常事態法制の整備にとりかかかるし、核シェア(米国との共有)論も議論を進めたい考えです。その前提として、非常事態、核攻撃に備えた地下シェルターがどうなっているのか明らかにすべきです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年4月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。