自分のバックアッププラン

自分のバックアッププラン、つまり、自分に何かがあった時の準備や代替案という意味ですが、皆さん、考えたことがあるでしょうか?日本で特に多いのが「俺、生命保険に入っているし、入院保険も出るから大丈夫だ」という方でしょうか?でもよく考えてみるとそれは自分をお金に代替しているだけで自分の意志やプランはその間、完全に切れてしまいます。

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人生ははかないものです。退職してゆったりした日々を過ごしながら終末を迎えるという絵に描いたようなライフがあればそれがベストですが、それが全てではないと思うのです。高齢になる自営業の方には年金拠出をしなかったので生活費をねん出するのにずっと働かねばならない人もいらっしゃるでしょう。

人生、どこで何が起きるかわかりません。交通事故やガンなどの病気、更にはいい歳した方がつまらない社会事件で逮捕されたりして晩節を汚す方もいらっしゃいます。ブレーキとアクセルの踏み間違いは高齢者の典型的交通事故です。そして、私はもう一つ、認知症も怖いと思っています。

私のアパートの隣人さんは独身のユダヤ系のおばあさんで普段はテニスクラブに通い、新聞を購読し、おしゃべりしても実にピンとした方でした。が、本当に突然のように記憶が怪しくなっていったのでしょう。ある日、エレベーター前で寝巻のまま立っていたので「どうしました」と聞けば「散歩に行くところなの」と。「そんな恰好じゃ寒いから何か着てきてね」と言ったのが異変に気が付いた最初。その後もあれっと思うことがしばしばありました。

更に、ある朝7時頃、私が部屋の玄関のカギをしていなかったこともあるのですが、そこにおばあさんがまた寝間着姿で入ってきました。「あれ、ここは私のうち?」って。それから私も何人かに連絡したりして注意を喚起したのですが、ついに施設にご入居され、隣の部屋は売り出されました。ここまで進行するのに2年かからなかったと思います。余計な心配ですが、その売却代金は誰のところに行くのだろう、ちゃんと計画していたのかな、というのも気になります。

認知症の人は65歳で6人に1人、80代後半で4割前後の人が陥るとされます。ガンならば余命が比較的はっきりわかり、終末プランができるのですが、認知症の場合、いつの間にかという問題があり、また進行具合も人それぞれです。重度の認知症なら言った瞬間のことを覚えられません。暴れたり、大声を上げることもあります。ガンにかかるリスクは概ね5割ですが、認知症も同等のリスクがあるわけで平穏無事に人生を閉じることは案外難しいハードルでもあるのです。

私はカナダで事業を営んでいますが、先日も事業家向けのバックアッププランに関するセミナーに出席しました。以前から会計士とはやり取りしていてそろそろ準備をしなくてはいけないという意識はありました。要はどういう形で誰に事業を引き継ぐのかを決める必要があるのです。目的と方法論次第でいくつもの選択肢があります。私は会計士とも相談し、特殊なスキームを実行すべく考えています。

もちろん、自分が死んだときにはじめて引き継がれる遺言でもいいのですが、できれば生きているうちに少しずつ禅譲できる形、そして最も経済的な方法を選択する必要があるのです。

日本ではあまりなじみがないでしょうが、遺言一つにしても弁護士はその財産額に対する%のフィーを要求します。暴利です。それが嫌ならそれを避ける方法もあるわけです。今はオンラインの遺言もあります。一方、遺言は死んだ瞬間、それが引き継がれるのですが、引き継がれた方が迷惑することもあります。もちろん現金なら嬉しいでしょうが、事業だとしたらどうしますか?そういう無謀な遺言もありました。「あなたは私の会社の社長を20年続けること」って。人の意思、関係なしですよね。

会計士や弁護士は概ね50代になったら遺言は書こうね、といいます。これは半ばビジネストーク、半ば本気ですが、私はある意味、正しいと思います。しかし、前述の通り、ビジネスの場合は遺言ではなく、元気な時から禅譲できるプランにした方が幸せだと私は思っています。日本でも後継者がなくて困っているという事業者だらけです。それは自分に固執しすぎるからで自分が永遠ではないと思った瞬間にタスキを託すという気持ちになれるでしょう。

では事業者ではない一般のリタイアされた方には無関係か、と言えばそんなことありません。そもそも一般論としては死んだときに自分の財産を100%使い切る「お買い物ゲーム」のようなことはできません。何歳まで生きるのかわからないのでどうしても手元に「将来のため」と90歳や100歳になっても一定額は残しておくものです。なのでそれなりに皆さん、「レフトオーバー」があるのですが、その平均値は大変多いともされます。

これを考えるとやはり、事前にプランすべきものだろうと私は思います。考え方の一つは死んでから相続するのではなく、生前に贈与してお金のことはすっかり任せて面倒を見てもらうことも選択肢の一つです。事実、認知症になればお金の判断は非常に厳しくなるでしょう。自分で独り占めして、握りしめておく価値などなくなるのです。上述のユダヤのおばあさんだって認知症になって億のお金が転がり込んできてもしょうがないでしょう。

残念ながら全ての人生にはエンドがあります。その終わり方も人それぞれ。となれば、第4コーナーを回ったらどうするのがベストなのか、考え始めるのも悪くないと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年4月3日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。