「高齢者の貧困」が日本のこれからの衰退を加速する

くらしとお金の経済メディア「LIMO」に掲載されていた金融広報中央委員会による調査結果が驚くべき内容になっています。2020年の50代で2人以上世帯の貯蓄額を調べたものです。

それによると、全体の13.3%が金融資産額がゼロ。逆に金融資産3000万円以上も13.8%となっており、この2つのカテゴリ-の比率が分類の中で最も多くなっています。また、全体の平均額は1684万円ですが、中央値を取ると800万円と、分布が大きく偏っていることもわかります。(図表を元記事で見る

CHUNYIP WONG/iStock

「年金2000万円問題」が話題になって以降、資産運用に対する関心は高まっていますが、この結果を見ると私と同世代の、これからリタイア期に差し掛かる人たちの経済的な準備が極めて薄いことが心配です。

日本の少子高齢化には抜本的な対策が講じられることは無く、その一方で超低金利の中での財政規律の緩みから財政支出は拡大しています。年金制度は崩壊することは無いでしょうが、給付水準はインフレも相まってこれから益々下がっていくことになります。

更に、平均寿命が伸びれば、「長生きリスク」も追加されます。

今や、自分で経済的な手当てをしっかりしておかないと、最低レベルの生活さえできなくなってしまうということです。「もう国には頼れない」のです。

高齢者に対する政府の社会保障負担が大きくなれば、財源は増税や社会保障費の負担増しかありません。増えていく高齢者を、減っていく若年層が支える仕組みには限界があります。

高負担に耐えられなくなれば、海外で暮らしていける若手の有能な人材は、日本から脱出することになるでしょう。

最終的に日本に残されるのは、日本を出ていくことができない人たちだけとなります。

つまり、日本は資産を持たない高齢者と、海外で稼ぐ力を持たない若年層で構成される「負け組」国家に衰退していきます。

考えたくない哀しいシナリオですが、新型コロナウイルスへの対応でも露呈した「変われない日本」には、現状維持バイアスが強すぎて、危機に対して何もしないまま終わってしまう可能性が高いと、残念ながら思わざるを得ません。

日本全体を変えることは私の力ではできませんが、少なくとも私の周りにいる人たちだけには、将来の変化から身を守る方法を伝えていこうと思います。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2022年4月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。