過去233年間に115人の判事が任命されたが、94%が白人男性だった米最高裁(下表参照)に初の黒人女性判事が誕生する。
白人 | 非白人 | 非白人内訳(人種、在任期間) | |
男性 | 108人 | 2人 | サーグッド・マーシャル(アフリカ系、1967~1991年)
クラレンス・トーマス(アフリカ系、1991年~) |
女性 | 4人 | 1人 | ソニア・ソトマイヨール(ラテン系、2009年~) |
合計 | 112人 | 3人 |
出所:2022年3月23日付、朝日新聞『指名のジャクソン氏 上院で公聴会始まる』をもとに筆者作成。
9人中4人を占める女性判事
「米最高裁、初の黒人女性判事誕生へ向けブライヤー判事退任」(以下、「前回投稿」)のとおり、バイデン大統領は2020年の大統領選で掲げた公約を実現すべく、ケタンジ・ブラウン・ジャクソン氏を指名、上院での公聴会を経て、4月7日に承認された。上院の構成は民主・共和両党とも50議席ずつと拮抗しているため、今秋の中間選挙で民主党が議席を減らすと承認手続きが難航するおそれがあった。このため、バイデン大統領が指名を急いだわけだが、上院では共和党の3議員が賛成に回ったため、53対47で承認された。
ジャクソン氏は1992年にハーバード大、1996年にハーバード・ロースクールをいずれも優等で卒業、前任のブライヤー判事の書記官などを務めた後、2013年からワシントンDC連邦地裁、2021年からはワシントンDC連邦控裁の判事を歴任した。
ジャクソン氏の就任により女性判事が9名中4名を占めることになる。ちなみに日本の最高裁は15名中3名にすぎない。もっとも最高裁の権限も前回投稿のとおり、最終的に大統領を決定する権限まで持つ米最高裁とは比較にならない。また今回の交代により過去233年間に94%を占めた白人男性判事が9人中4人と初めて過半数を割ることになる。
米最高裁は7月から3か月の夏休みに入るため、6月末までの今会期中に妊娠中絶や銃規制などの問題について判断することになる。こうした社会を二分するような裁判で重要な役割を果たしたのが、初代女性判事のサンドラ・デイ・オコナー氏である。
アメリカで最も権力を持つ女性とよばれたオコナー判事
オコナー氏は1952年にスタンフォード大ロースクールを102人中3番の成績で卒業した。同級生の首席は後に米最高裁長官としてオコナー氏の上司となるウィリアム・レンキスト氏で、二人は一時つきあっていたこともあった。オコナー氏は自分が仕えた中で最も公平かつ効率的な上司だったとレンキスト氏を高く評価している。
卒業して法律事務所に応募したところ、秘書でなら雇ってもよいという事務所しかなかった。このため、検事の道を選びアリゾナ州で司法次官補、上院議員、最高裁判事などを歴任した後、連邦最高裁入りした。
1980年の大統領選で米最高裁判事に女性を指名すると公約していたレーガン大統領は、1981年に公約どおりオコナー氏を指名した。判事就任を告げる米最高裁からの使者に、「また秘書にでもしてくれるのかと思ったわ、今度はSecretary of State (国務長官)にでもね」と答えた。
就任後のオコナー氏は国務長官以上の権限を持つことになった。当時の最高裁判事の構成は保守派3人、リベラル派4人、彼女を含む2人の中道派の判断が判決の行方を左右する浮動票(swing vote)となった。重要な社会問題を扱う裁判で彼女のついた側が5対4で多数意見となる判決が多かったため、アメリカで最も権力を持つ女性とよばれるようになった。
二代目の女性判事、ルース・ベイダー・ギンズバーグ氏もロースクールを首席で卒業しながらオコナー氏同様、法律事務所の面接で秘書扱いされたりしたが、こうした性による差別撤廃のために闘い米最高裁のスターとなった。彼女の業績については別稿で紹介する。