独連邦憲法擁護庁(BfV)のトーマス・ハルデンワン長官と連邦内務省のナンシー・フェイザー内相は13日、「Rechtsextremisten、 Reichsburger und Selbstverwalter in Sicherheitsbehorden」(治安機関内の極右過激主義者、「帝国市民」、「自治市民」)に関する状況報告」を公表した。
右翼過激派による反憲法活動
それによると、過去3年間で警察、軍隊、諜報機関の職員の中に327人の右翼過激派、「旧ドイツ帝国市民」、「自治市民」(Selbstverwalter)が反憲法活動を行っていたという。報告書の期間は2018年7月初めから2021年6月末までの3年間。連邦治安当局は合計138件、州治安当局は189件を記録している。
調査期間が重複するが、2017年1月から2020年3月までの最初の報告期間では、反憲法活動は34件に過ぎなかったから、21年6月までの新しい状況報告書では急増していることが明らかだ。
過去3年間の期間で最も頻繁に記録された過激派活動は、極右過激派チャットグループのメンバーシップ、および憲法保護に関連する組織のメンバーシップまたはサポートだ。それに次いで、移民の背景を持つ人々やイスラム教とユダヤ教の信仰を持つ人々に対する人間の尊厳を侵害する発言など、政治的に動機付けられた侮辱行為が続く。登録された犯罪の7%(連邦)または5%(州)は「暴力行為」だ。加害者の約半数は1人で行動し、「複数の人々が関与したとき、関与した人々の大部分は同じまたは異なる公共機関に属していた」という。
治安機関内に極右過激派ネットワークが存在するか否かも初めて調査された。その結果、連邦政府と州政府のセキュリティ当局の201人の職員は過激派ネットワークアクターと接触していた。治安当局の職員と極右過激派音楽グループ、フーリガンとの繋がりも浮かび上がっている。治安機関で反憲法活動をしていた職員の数では、メクレンブルク=フォアポンメルン州、ヘッセン州、ノルトライン=ヴェストファーレン州が多かった。
フェイザー内相は、「民主主義法治国家を極右過激主義者たちによって内部からサボタージュされることを許さない」と主張し、「極右過激派、『帝国市民』、『自治市民』は公務に就くことができない」と述べ、「年内に連邦機関職員の規律に関する新たな法案を提出する」と語った。
ドイツではここ数年、極右過激派や極左グループによる暴動や破壊行為が絶えない。中部のヘッセン州カッセル県では2019年6月2日、ワルター・リュブケ知事が自宅で頭を撃たれて殺害される事件が起き、ドイツ国民に大きな衝撃を与えた(「極右過激派殺人事件に揺れるドイツ」2019年6月28日参考)。
昨年12月15日には、ワクチン接種反対派の活動家がザクセン州のミヒャエル・クレッチマー首相暗殺計画を練っていたことが発覚するなど、コロナ規制抗議者と極右過激主義者が結束するリスクが見られた。
「旧ドイツ帝国市民」運動
その一方、ドイツには、「旧ドイツ帝国市民」運動(Reichsburgerbewegung)と呼ばれる集団が存在する。「旧ドイツ帝国市民」は、ドイツ連邦共和国や現行の「基本法」(憲法に相当)を認めない。だから、政治家や国家公務員の権限を認知しない。
シュピーゲル誌によると、ドイツでは約1万6500人の「旧ドイツ帝国公民」がいる。その内、約900人は極右過激派だ。約1100人は合法的に武器を所持している。ドイツでは2016年10月、バイエルン州で1人の「旧ドイツ帝国市民」が警察官を射殺した事件が発生している(「『ファンタシー帝国』に住む人々」2018年1月31日参考)。
参考までに、ドイツには極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が存在する。連邦憲法擁護庁はAfDを危険団体として監視対象としている。AfDは2013年2月、創立された新党だ。連邦議会で81議席を有する一方、ドイツ16州の州議会で228議席、欧州議会では10議席を持つ政党だ。
党員数は2020年5月の段階で3万4023人だ。党内の路線争いが表面化し、共同党首イェルク・モイテン欧州議会議員(60)がAfD共同党首の地位を辞任するとともに、AfDから脱党することを表明したばかりだ(「独極右AfD党首の脱党表明の波紋」2022年1月30日参考)。
ドイツは第2次世界大戦でのナチス・ドイツの戦争犯罪があって、戦後、極右派活動、ネオナチ活動には他の国以上に神経質に反応してきた。極右過激派の不祥事が生じる度に、メディアは即報道し、警告を発してきた。13日に公表された「状況報告」は、単に極右過激派活動が増えているということではなく、それらの過激な活動を防ぎ取り締まる側の警察、連邦軍、諜報機関内に過激な極右活動家、シンパがさまざまな反憲法活動をしている、という内容だけに衝撃的だ。
イスラエルの歴史学者、ユバル・ノア・ハラリ氏(Yuval Noah Harari=46)は、「現在のドイツはナチス政権が再台頭する可能性が世界でも最も少ない国だ」と述べているが、独連邦憲法擁護庁の状況報告を読む限りでは、極右過激派活動には今後も注意が必要だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年5月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。