独週刊誌シュピーゲル(1月28日、電子版)に「エーッ」とビックリする記事が掲載されていた。「旧ドイツ帝国公民」運動( Reichsburgerbewegung)の昨年の犯罪件数だ。「旧ドイツ帝国公民」という言葉自体、あまり耳にしない言葉だ。記事は公民(メンバー)の昨年の犯罪件数を紹介していた。
ドイツ連邦刑事局(BKA)によると、昨年、「旧ドイツ帝国公民」運動メンバーによる政治的動機に基づく身体傷害、扇動、放火、脅迫などの犯罪件数は771件だった。その内、619件は実行し、152件は未遂だった。116件は国家公務員への犯罪だ。314件は同国南部バイエルン州で発生している。
シュピーゲル誌によると、ドイツでは約1万6500人の自称「旧ドイツ帝国公民」がいる。その内、約900人は極右過激派だ。約1100人は合法的に武器を所持している。前年2016年には公民総数は1万人と推定されていたから、過去1年間で急増したことになる。
ちなみに、週刊誌フォークスによると、「旧ドイツ帝国公民」運動の数では、バイエルン州が約3500人で1番多く、次いでバーデン・ヴュルテンベルク州約2500人、ノルトライン=ヴェストファーレン州約2200人という。
「旧ドイツ帝国公民」は、ドイツ連邦共和国や現行の「基本法」(「憲法」に相当)を認めない。だから、政治家や国家公務員の権限を認知しない。「旧ドイツ帝国公民」運動といっても、統一された定義はなく、さまざまな政治信条が入り混じっている。ドイツ日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングのコラムニストは「旧ドイツ帝国公民」運動を「ファンタジー帝国」と呼んでいる。彼らにとって共通点は、ドイツは過去にしか存在しないということだ。
独連邦憲法擁護庁は、「旧ドイツ帝国公民」運動を新しい過激主義運動と受け取り、警戒を強め、2016年から監視対象としている。
ドイツでは2016年10月、バイエルン州で1人の「旧ドイツ帝国公民」(ヴォルフガング・P)が警察官を射殺した事件が発生している。Pは昨年10月の裁判で終身刑の判決を受けた。
もちろん、特定の思想に凝り固まり、「時間」が止まり、前に進まなくなった人々は「旧ドイツ帝国公民」だけではない。イスラム圏の統合を夢み、中世時代のイスラム法に基づいた「カリフ国家」の復興を叫び、中東各地で蛮行を繰り返し、異教徒の首を斬り、歴史的文化財、遺産を破壊してきたイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)も同じだ。人質や異教徒の首を斬り落とすISメンバーの姿をビデオで初めて見た時、当方は「中世時代から飛び出してきた人々」といった印象を強く受けた。
資本家の搾取から労働者を解放し、平等・公平な労働者の天国を建設するという理想を掲げてきた共産主義思想を信望する人々も同じかもしれない。共産主義世界の実態が暴露された後もその理想を心に秘め、革命を夢見続ける人々だ。
「旧ドイツ帝国公民」運動メンバー、IS、共産主義者は特定の思想の虜となり、実存しない「ファンタシー帝国」を夢に見、そこに住み続けるわけだ。興味深い点は、彼らは次第にアナーキーとなり、過激主義に陥っていくことだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年1月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。