値上げのニュースが続いています。
先日、パンの値上げ報道で解説者が以下のようなコメントをしていました。
「パンが高けりゃ、米を食べればいいんだよ」
ずいぶん粗いコメントです。解説者やコメンテーターだけではなく、節約アドバイザーといった「専門家」でもこのような「助言」をする方がいます。
お米は、さほど安くありません。むしろ「お米はパンより高い」。パンより安いシーンは限定的。筆者はそう感じています。今回は、パンとお米を比較し、値上げに伴って家計支出がどのように変化するか、考えてみたいと思います。
本当に米はパンより安いのか
パンは「加工食品」。米は「生鮮食品」。すぐ食べられるパンと、炊かないと食べられないお米は、そもそも比較できません。
朝食で食べる食パンであれば、炊かなくてよい「レトルトご飯」と。昼食で食べるコンビニの総菜パンと比較するのであれば、「おにぎり」と、比較すべきです。
スーパーなどの食パンは、安価なものだと一斤約「100円」。1食2枚とすると、約33円(320kcal)です。一方、レトルトご飯5パック入りは「400円」。1食1パックとすると80円(285kcal)。圧倒的にパンが安価です(※1)。
コンビニの総菜パンは100円から数百円と幅広いので、カロリーが近いものと比較すると、
・パン:粗挽きポークソーセージ 160円 (392kcal)
・おにぎり:大きなおむすび 鶏唐揚げ一味マヨネーズ 170円(367kcal)
(ともにセブンイレブン 税抜き)
と、ほぼ同等。
では、材料としてのパンとお米、小麦粉と米粉はどうか。政府の「原油価格・物価高騰等に関する関係閣僚会議」において、小麦粉から米粉への切り替えが提言されています。
「 輸入小麦から国産の米・米粉、国産小麦への切替えなど(中略)、国産小麦の生産拡大等を支援する」
(「コロナ禍における原油価格・物価高騰等総合緊急対策」原油価格・物価高騰等に関する関係閣僚会議 )
ホームベーカリーでパンを焼く方や、お菓子作りをされる方は、この提言に違和感を感じるのではないでしょうか。
スーパー大手 西友のプライベートブランドどうしで小麦粉と米粉を比較すると、
・小麦粉 :みなさまのお墨付き 強力小麦粉 1kg 198円 (税込 213円)
・米粉:みなさまのお墨付き お米の粉 500g 198円(税込 213円)
1グラム当たり、小麦粉「0.2円」、米粉「0.4円」。米粉の価格は、小麦粉の「2倍」。お菓子づくりにおいて、米粉は贅沢品です。
業務用でも価格は「2倍」といわれています。米粉の生産量は4万トン。小麦粉の470万トンの100分の1以下と、生産量が少ないため、価格が低下しないのです。
生産量としては圧倒的に少ないわけで、それだけに流通における輸送コストがかかってしまうことになる。「そのため価格的に、米粉は小麦粉の2倍ほどになっています」
小麦大幅値上げで注目される「米粉」 普及の鍵は生産量拡大と低コスト化 | マネーポスト
皮肉なことに、「物価高騰等総合緊急対策」は、価格倍増の結果をもたらすことになります。
パンと(炊飯済みの)ご飯、小麦粉と米粉の比較では、米に優位性はありません。安価になる可能性があるのは、パンか米か、という「モノ」ではなく、買うか自炊するか、という「手法」の切り替えにおいて、です。
「パンが高ければ、米をたべればいい」ではなく、「買うのではなく、自炊すればいい」。これが、正しい助言です。
自炊にシフトする
助言されるまでもなく、若年層では、数年前から自炊へのシフトが始まっています。コロナ前の2017年、ホットペッパーグルメ外食総研が行った自炊の調査結果は、
・過去1年で自炊を増やした人が、外食を増やした人を上回っている
・自炊を増やしたのは20代女性が最多
・自炊理由は「家計が厳しく、食費を減らしたい」が最多
でした。
コロナ後のマーケティングリサーチジャーナルの調査でも、この傾向は変わりません。
・自炊を増やしたのは全体の33%
・自炊を増やしたのは20代女性が最多
所得の少ない若年層の自炊シフトが目立ちます。
職場の昼食で自炊のお弁当を食べる人が増えています(※2)。リモートの普及で自宅で昼食を食べることも多くなりました。今後、自炊する層は、さらに広がるのではないでしょうか。
ヒマはあるけど金がない
値上げは今回だけにとどまりません。秋には、再度の値上げラッシュが予想されています。可処分所得は、さらに減ることになるでしょう。
一方、増えるものもあります。余暇です。政府の「骨太の方針」に週休3日の普及が盛り込まれました。
「選択的週休3日制度について、育児・介護・ボランティアでの活用、地方兼業での活用などが考えられることから、好事例の収集・提供等により企業における導入を促し、普及を図る」
(経済財政運営と改革の基本方針2021 について)
導入は大手からで、全体に広がるのは時間がかかることでしょう。しかし、実現されれば「ヒマはあるけど金はない」といった状況になります。
自炊に限らず、「できることは自分でやる」。これからは、そういった時代に変わっていくのかもしれません。
■
※1
小麦の朝食 6枚(税込 105円)
みなさまのお墨付き ごはん(税込 429円)
※2
働く人の平日ランチ「自炊」33.4%で前年比約1.5倍に20・30代女性中心にテレワーク増加影響が顕著「1人でランチ」
【参考】
- 過去1年の自炊・外食・中食の増加状況と理由を調査 | ホットペッパーグルメ外食総研
- コロナ前後の夕食自炊頻度の変化 – Marketing Research Journal
- 小麦大幅値上げで注目される「米粉」 普及の鍵は生産量拡大と低コスト化 | マネーポスト