「観光競争力世界1位」に対する日本人の奇妙な反応

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

世界経済フォーラム(WEF)の発表によると、2021年度の観光競争力は日本が世界一位になったという。これは史上初のことで、大変喜ばしいことだ。参考までに順位は次の通りとなっている。

  1. 日本
  2. アメリカ
  3. スペイン
  4. フランス
  5. ドイツ

ホテルなどのインフラや、観光資源の豊富さなど、我が国の観光力は多面的に好意的評価を得た。

DoctorEgg/iStock

だが、SNSではこの結果に対してあまり良い反応を示さない人がかなりの数が散見された。もちろん、いろんな意見は出ていいし、人の感じ方は様々である。しかし、こうした結果に対してなぜ素直に喜べないのか? 日本人のメンタリティの悪いクセのようなものを感じたので、論考したい。

観光力が高いことのメリット

そもそも、今回の結果は価値あるものなのだろうか?その疑問に対しての答えは「YES」である。

観光力があれば、たくさんの観光客を集め、彼らはお金を使うのでシンプルに経済がまわる。現在は円安のただ中にあるが、円が買われるためにこの傾向の是正にもなる(円高・円安の有用性の是非については別の議論が必要だ)。結果としてグローバルにおけるスタンディングを得ることになり、国際的な影響力も高まるだろう。

さらに日本に興味を持ってくれる外国人が増えれば、長期的に見て我が国の国益になる。将来的に日本に留学したり、働きたいと思う人も出てくる。それも単純労働者ではなく、エコノミストや芸術家、スポーツ選手やタレント業など様々なクリエイティブジャンルでも起きることを期待できる。プロフェッショナルスキルを持つ外国人が働くことで、国としての多様性も高まり、付加価値も増加するので明らかなメリットといえよう。

筆者の家族に観光産業で働く人物がいるのだが、コロナ禍前はもはや日本人より外国人観光客の利用者が多かったと言っていた。そして大きなお金を使っていくので、当然資金的にも潤う。観光力が低いことに比べれば、明らかに高い方が良い。

そもそも、我が国の訪日外国人は世界的に見ても低い水準だった。2003年は年間521万人だったが、そのタイミングでビジット・ジャパン・キャンペーンを打ち出し、コロナ前は3000万人超だったのだから、凄まじい伸び率である。つまり、国家戦略と民間企業の努力が実った結果なのである。観光については大成功したといえるだろう。

結果に不満を吐露する人たち

この結果に誇らしいという人がいる一方で、その逆の不満を吐露する人もいる。

「外国人が増えると観光公害になる」
「犯罪が増加する」
「円安による国力低下で安く買い叩かれているだけ」

などだろう。まず、観光公害については観光で得られる経済的利益との対比を行い、どちらがメリットが高いかを冷静に論じるべきだろう。また、犯罪増加という人は具体的に「訪日観光客が起こした犯罪」という厳密なデータを用いて、分析する必要がある。

さらに、国力低下と観光には何の関係もない。国力世界一のアメリカは2位にランクインしているし、WEFのPDFレポートを見ると高く評価されたのは観光資源やインフラへの評価である。価格の安さは決定的な評価基準になっていない。

これらの不満ポイントは、冷静にメリットとの突合を行うことで評価されることのメリットの方が圧倒的に大きいように思える。つまり、結果を素直に喜ぶべきで、今後この高い評価をどうやって維持するか?という建設的に考えるべきだ。

最も懸念されるべきは、このような日本人の自信のないメンタリティではないだろうか。我が国は世界的に初めて1位という大きな評価を受けた。その事実を冷静に受け止め、今後も競争力を高めて強いビジネスの1つに育てていくのが健全な取り組みと言えるだろう。それなのに「これが悪い」「あれも悪い」と重箱の隅をつつきはじめ、あたかも悪い名誉を得たかのような思考に陥るのは、生産性が高い行為とは言えない。努力して高めた観光力が評価されたのだから、もっと自信を持つべきだ。

筆者は海外ビジネスで外国人とコミュニケーションを取る機会があるのだが、その時に言われるのは「日本は今でも世界の中では大国だ」「日本人は自信を持つべき」という意見である。これはそのとおりだと思う。

当然、我が国には大きな課題はいくつもあるし、視聴者のウケを考えて作られた「日本スゴイ!」というテレビ番組を真に受け、昭和時代のグローバルプレゼンスが未だ健在だと思うべきではない。だが、今回の結果についていえば明らかにポジティブだ。自信を持って、建設的な次のアクションにつなげるべきだろう。