日本人の投資マインドを呼び覚ますのは「税金」

岸田首相もようやく「新しい資本主義」において、家計の貯蓄を投資へ促す改革に重点を置き始めました。分配より成長ということに気が付いたようです。

日本人の個人金融資産約2,000兆円の54%は、現金・預金に滞留しています。この資金がリスクマネーとして動き出すことが成長戦略に必要とされています(図表を元記事で見る)。

K-Angle/iStock

これまでも少額投資非課税制度(NISA)や個人型確定拠出年金(iDeCo)といった税制優遇によって、投資のインセンティブを高める試みが行われてきました。今回も、さらなる投資促進策として、現制度の拡充が検討されています。

しかし、既に存在するこのような制度の手直しに手間とコストをかけても、効果は限定的だと思います。

日本人の投資マインドを呼び覚ますために最も効果的なのは、投資商品全体の税制の見直しです。

例えば、長期的な投資資金を日本株式に呼び込みたいのであれば、一定期間以上保有した日本株や株式型投資信託の売却益に対して、キャピタルゲイン課税免除あるいは半額にする。短期ではなく、長期の投資資金が優遇されているというメッセージになります。

あるいは、ブロックチェーン、メタバース、NFTといった新しいテクノロジーを普及拡大させたいのであれば、その代表的投資対象である暗号資産の税制改正が効果的です。以前のFXと同じように、雑所得での課税を金融商品と合算できる税制に変更すれば、大きなインパクトがあります。

これらの個人投資家のインセンティブを高める方法は、資本主義市場に資金を呼び込み、税率を下げたとしても、税収はむしろ増えるかもしれません。

日本国内では個人に対する課税強化の動きが強まり、日本人は税金に対して極めて敏感になっています。つまり税制こそが日本人のお金に対するマインドを変える最も強力なツールとなるのです。

既存の税制の枠組みの延長線で小細工をするのではなく、抜本的な議論が必要だと思います。ただ、「令和の検討使」にそこまでは期待しない方が良いかもしれません。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2022年6月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。