ハラスメント研修は政治家の必修科目

衛藤 幹子

細田博之衆議院議長のセクハラ行為、ご本人は「事実無根」と抗議しているが、これを信じる有権者はどのくらいいるだろう。然もありなんと思うのは私だけか。

細田博之議長と岸田首相 同議長Fbより(編集部)

内閣府が2020年12月〜2021年1月に地方議会議員2,334人(男性1,053、女性1,247、性別無回答34)に実施した調査によると、議会活動や選挙活動中に同僚議員や支援者、有権者からハラスメント行為を受けたと回答した女性は57.6%と6割近くに上った。

ハラスメントの約9割が性にまつわる嫌がらせであり、この中には殴る、触る、抱きつく、付きまとうなど悪質なものが含まれていた(「女性の政治参画への障壁等に関する調査研究報告書」令和3年3月)。

従業員30人以上の事業所を対象にした職場のハラスメントに関する調査では、女性従業員のうち過去3年間にセクハラ被害を受けた回答した者は12.8%、またパワハラは29.1%であった(「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)」)。調査内容が異なるため、単純に比較できないとはいえ、地方議会の57.6%はやはり高い。

国政における同様の調査は見当たらないが、個人的にその極一端を知る機会があった。昨年の春、ある研究プロジェクトで12人(男性7人、女性5人)の衆参両院の国会議員にジェンダー平等に関するインタビューを行い、その中でセクハラ問題について意見を聞くことができた。

まず、セクハラの被害者になるのは、年齢が若く、新人あるいは当選回数の少ない女性議員である。しかし、若く、駆け出しでも世襲の女性議員は被害を被ることがない。先輩や同僚議員の血筋にあたる女性には遠慮が働くようだ。また、女性議員は自分が被害に遭わなくても、他の女性の被害状況を認知していたのに対し、男性議員の関心は低い傾向にあった。

セクハラには性的欲望という動機に加えて、取るに足りない、自分よりも下位の存在だとみえる相手を支配することで、自らの権力を誇示する権威意識が作用している。つまり、セクハラは性欲と同時に権力欲を満たそうとする行為なのである。だから、自分よりも上位の先輩議員が背後霊のように控える世襲の女性議員はターゲットにされないのである。

そもそも政治とは権力であり、議員になると公然と権力を行使できる。ところが、権力は得手して人に全能感を与え、所構わず権力を振るいたくなるように誘惑する。頼み事や陳情など有権者の要求行為も議員の優越感を助長する。権力闘争を勝ち上がってきた熟練の政治家ほど、この権力の罠にはまりがちだ。権力欲の渦巻く政界にはセクハラが横行しやすいのである。

日本では女性議員が極めて少ないこと(国政は衆参合わせ14%、地方議会は16%)もセクハラの誘因になる。少数派がいじめや嫌がらせの対象になるのは、広く社会でみられることだ。また、男性が多数を占める状況下では、女性の考え方や感性は無視され、女性には到底我慢できないような言動が容認され、問題視され難い。

細田議長の側近に女性議員は果たして何人いたのだろう。議長に近い議員のうちのせめて3分の1が女性だったら、セクハラを防ぐことができたかもしれない。

さらに気になるのが、政界の国際化の遅れである。これまでの投稿でも指摘してきたように、ジェンダー平等、女性やマイノリティの人権擁護は今や国際規範である。政治家や企業トップといった国のリーダーには、この規範を遵守することが求められている。

日本の政界で繰り返される女性蔑視やセクハラは、日本がジェンダー後進国であることを世界に示してきた。これが日本の国益をいかに損なっているか、政治家はしっかりと認識すべきだ。政治家がジェンダー平等意識を持ち、いかなるハラスメントも容認ぜずという毅然とした態度を取れば、それは社会全体にも及ぶはずである。

さて、政界のセクハラ問題、果たして解決策はあるのか。一つは女性議員を大幅に増やすことであるが、実現はかなり難しい。そこで、提案したいのが、企業や自治体で採用されているハラスメントを防止するための研修を地方議会から国会まで全ての議員(もちろん首相や衆参議長も)を対象に義務化することである。

研修が最も必要だと思われるが、重い腰を上げそうもないベテラン議員の参加を促すため、未受講者には、たとえば立候補資格の剥奪といった厳しい罰則を設け、さらに真面目に受講したかを確認するために習熟テストを課すなど実効力のあるプログラムが望まれる。国会改革の一つとして是非検討してもらいたい。