外国人観光客の受入方法は諸外国の現状を参考にしよう

6月10日より条件付きでの外国人観光客受入れが始まった。それに対して、特にマスク着用を「お願い」することに対する是非が世間で巻き起こっている。

令和4年6月10日以降の外国人観光客の受入れ開始について(観光庁HP)

外国人観光客の受入れを開始するのは、特に欧州から岸田総理が国境措置の正常化を求められているためである。早急に実行しなければ、欧州から日本人に対するビザ免除の中止などの制裁措置を受けるため、いかに国内世論の反発を受けず参議院選挙に向けて自民党の支持率を下げないか、という方法を考えるしかない状況に追い込まれているのだ。

欧州から求められているのは「相互主義によるビザ免除措置の正常化」であり、現状ではビザ発給が制限されているので、実際にはさらなる開放を進める必要がある。

岸田総理はEU代表から国境開放を迫られていた

岸田総理はEU代表から国境開放を迫られていた
岸田総理が5月12日に開催された「第28回日EU定期首脳協議」で、欧州理事会議長と欧州委員会委員長から日本の入国規制を撤廃するよう求められていたことが外務省のHPに掲載されている。 第28回日EU定期首脳協議 我...

我々は、不必要な渡航制限を抑制することを求める。我々は、相互的な査証免除措置の回復に向けて取り組む。(第28回日EU定期首脳協議 共同声明(仮訳) 17.より引用)

岸田総理はゴールデンウイークでの欧州外遊中に、行く先々で国境開放を迫られていた。そして5月5日ロンドンでの講演で「他の主要7カ国(G7)並みに水際措置を緩和する」と表明した。

岸田総理「他のG7諸国並みに」6月にも水際対策大幅緩和へ(テレ朝news 5月5日付け)

岸田総理「他のG7諸国並みに」 6月にも水際対策大幅緩和へ
 岸田総理大臣はイギリスの金融街・シティで演説し、来月には水際対策をさらに緩和していく考えを示しました。  岸田総理大臣:「昨年末、オミクロンの世界的拡大を受けて水際対策を強化しましたが、おかげさまで世界的に見ても日本のコロナ対応は成功しています。6月には他のG7(主要7カ国)諸国並みに円滑な入国が可能となるよう水際...

その後5月12日に東京で開催された第28回日EU定期首脳協議で上記共同声明を発表した。日本では全く報道されていないが、共同声明として書面で発表されたのだから、岸田総理は守らない訳にはいかないのだ。

では外国人観光客が入り始めた国ではどういう状況になっているのか。日本にとって「受け入れない」という選択肢はないのだから、諸外国の事例を参考にして、どうなるのか、どうすべきなのかを考える必要がある。

私は6月始めから1週間程度北欧諸国(ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク)を訪問してきた。その時の現地の状況を参考までにお伝えしたい。

まずカタール航空でドーハからノルウェーのオスロに入った。カタール航空やドーハ空港ではマスク着用が義務化されているので、空港内や機内ではほぼ全員がマスク着用していた。ドーハからオスロまでの機内ではマスク非着用の人もちらほら見かけたが、客室乗務員は注意していない感じだった。

そしてオスロ空港に着いて驚いたのは、空港職員が誰もマスク着用していないことだ。北欧諸国はもともとマスク着用率が低かったのだが、マスク顔しかいない日本から訪れると驚きではあった。その後入国審査を終え空港内に入ると、誰もマスク着用している人はいない。最初は慣れなかったが、1週間も滞在していると、マスク着用している人が異常に見えるようになった。

オスロから鉄道、バスを乗り継いでナルビクまで向かった。この鉄道が行楽客で大混雑。途中トロンハイムからは寝台車に乗るつもりだったが、空港駅で寝台券を買おうとすると満席。座席車も空席が少なく、それだったらもうトロンハイムで一泊して昼間の移動にしよう、とプラン変更した。

実際に鉄道移動してみると、乗客の多くは行楽客で大きな荷物を抱えた人、家族連れが多かった。行楽需要が回復していることがよくわかった。

ナルビクからは国境を越えてスウェーデンのルレオに行く列車に乗ったが、これも満員で席を見つけるのに苦労した。ここも普段はガラガラのはずだが、ドイツ人ツアー客が多く、この状態になっていた。

そこで驚いたのが、N95マスク着用の添乗員が車内を回ってドイツ語で行程の説明を始めたことだった。ノルウェー入りしてマスク顔を見るのは初めて。よく周りを見ると、マスク着用のツアー客も何人かいる。現地の人が誰もマスク着用していなくても、マスク着用する観光客はいるんだ、とわかった。

ちなみにこの添乗員(若い女性)はさすがに恥ずかしくなったのか、最初の案内以降はずっとマスクを外していた。旅行会社の指示でN95マスクを着用するように言われていたのではないかと推測する。ちなみにドイツでは以前公共交通機関や店舗内で医療用マスクの着用義務が課されていた。

この後フィンランド、スウェーデン、デンマークを周遊したが、地元の人でマスク着用者はゼロ、観光客でちらほら見かける程度だった。マスクを着用しているのは、アラブ系、東アジア系の人ばかり。そして早期にマスク義務を解除し国境措置を正常化させたお陰か、観光地や鉄道、飛行機はどこも観光客で大混雑だった。

また、たまたまストックホルム中央駅で現地在住の日本人と会って話をした。その人は「マスク着用者が私1人になるまでマスクつける」と言い張っていたらしいが、この日はマスク着用していなかったので、どうやら本当に最後の1人になってマスクを外したようだ。

ストックホルム中央駅でデンマーク国境へ向かう高速列車を待つ人々。列車は満席。ほぼ行楽客で荷物が多い。誰もマスク着用していない(2022年6月7日筆者撮影)

コペンハーゲン中心部。平日なのにとにかく観光客が多い。マスク着用者はほぼ皆無。
2022年6月8日筆者撮影

旅程の最後にオスロからフランクフルト経由で羽田に戻った。オスロからフランクフルトまでのルフトハンザ便はサージカルマスク着用義務がある。オスロ空港の出発ロビーでは誰もマスク着用していなかったのでどうなるのかと思っていたら、さすがに搭乗前には多くの人がマスクを着用していた。

それでもマスクなしでゲートを通過する人はいて、様子を見ているとマスク非着用の人がいたら、ノーマスクの係員がサッとサージカルマスクを渡していた。日本みたいに「お客様、マスクはお持ちですか?」なんていちいち聞かない。黙って渡す。私も試しにノーマスクでゲートを通過したら、無言でサッとマスクを渡された。日本より遥かにスマートだと感じた。

そして欧州の中ではマスク着用率が高いはずのドイツ・フランクフルト空港だが、それでも空港関係者でマスクを着用しているのは1割程度。フランクフルトから羽田まではANA運航便だったが、ANAの現地職員でマスク非着用の人もいた。

私はルフトハンザでチケットを購入したのだが、この区間はANA運航便だったのでアベノマスク着用が認められる。ルフトハンザ便だったらサージカルマスク着用義務だった。お陰で私は長時間のフライトをアベノマスク着用で済ますことができた。

ちなみにANA機内での最初のアナウンスは「ヨーロッパの公共交通機関ではマスク着用義務が解除されていますが、当機では定期航空協会の指針に基づき、お客様へのマスク着用をお願いしています」という旨の内容だった。どうやら日本の法律で決まっていなくても国土交通省が定期航空協会に圧力をかけることで実質マスク義務化を行っているようで、ANAが「自分たちのせいではありません」と言っているように、私には聞こえた。

この例からいえば、外国人観光客であろうとマスクを着用する人はする。日本観光がマスク着用を条件に参加を認めるのであれば、マスクを着けることに抵抗のない人が参加するだけのことだ。

参加人数に制限のある現状であれば、その程度でツアーが埋まらないということは、まずない。特に韓国人は日本人よりマスク信仰が強いと私は感じているので、マスク着用義務なんかツアーの集客には全く影響がないだろう。欧州からだってドイツやフランスからなら十分集まる。以下の記事によると、フランスの現状は北欧に比べると、まだマスク着用している人が多いようだし。

日本とフランス「コロナ後の社会」はこんなに違う(東洋経済オンライン 2022年6月12日)

日本とフランス「コロナ後の社会」はこんなに違う
フランスに住む日本人女性のくみと、日本に住んだ経験を持つフランス人男性のエマニュエルが日本とフランスの相違点について語り合う本連載。今回はフランス人のマスクや新型コロナに対する「今の気持ち」について…

アムステルダムでもドイツ、フランスからの観光客はマスクを着用している人がいる、という報告もある。

日本が外国人に国境を開放するというのは、欧州との約束事なので早急に進めないといけない。岸田総理が5月5日にロンドンで「6月には他のG7(主要7カ国)諸国並みに円滑な入国が可能となるよう水際対策を更に緩和していきます」(前掲テレ朝newsより)と時期を示して言った以上、必ず実行するはずだ。

その前提のもとでどうすればトラブルが減るか、国民の理解を得られるかは、特に厳しいコロナ規制を敷いてきた後に一気に国境開放を進めた東南アジア諸国の事例を参考にするべきだと私は思う。