私見、9党党首論戦:各党の「パッチワーク政策」はいよいよ限界に

昨夜、韓国と台湾の人たちとの定例になった食事会の席で話題になったのが「日本の円はどうなっているんだ」と。円安に怒っているのではなく、心配しているというトーンであります。世界の動きとはあまりにもかけ離れた状況に日本だけ何処か違うところに向かっているのではないか、という懸念があるのでしょう。まさか香港にあった有名な水上レストラン「ジャンボ キングダム」がえい航中に沈没したニュースがありましたが、これがジャパン キングダムではなければよいと思います。

円安の質問に対して私のその場の答えは「今、金利を上げると困る人や会社が多い。だけどこの低金利は20年もずっと続いているから金利は低いものだという固定概念が人々にも会社にも植え付けられてしまった。これが最大の問題」と。

さて、9党党首討論。私があえて切り口を全く変えて一言コメントするならば党首の皆さんの主張していることは全員「パッチワーク政策」。つまり、バブル崩壊後、ビビり政策となり、これ以上悪いことが起きないように何かあればパッチで穴をふさぐという政治をずっと続けてきており、今回の党首討論も「今、何処に穴が開いているのか?どの穴を塞がなくてはいけないのか」というスタンスなのです。

21日に記者クラブで行われた9党党首討論会

再建、再興という発想はそこにはないのです。

例えば物価高問題について岸田首相は「エネルギーと食料品価格にしっかりと政策を用意する」と述べています。「岸田検討使」の最も多いフレーズ「しっかり」がしっかり入っています。気持ちはわかるのですが、何をしっかりやるのか、具体的に述べて欲しいところです。野党は消費税を下げろでほぼ一致しています。消費税が下がることは現実には考えにくいですが、仮に下げた場合、野党は戦利品になるのでしょうか?維新の松井氏は赤字国債、国民民主の玉木氏は10万円のインフレ手当…と様々ですがそれが本質的な答えなのでしょうか?

物価が上がった理由は何でしょうか?為替は補助的理由で主因は海外からの輸入財の価格の上昇です。これがキー。つまり、日本だけが物価安で世界の楽園になることはないわけで本質的には物価が多少上がっても耐えられる経済力という体力をつけることが大事なのです。

高齢者はどうするのだ、といえばそもそも年金にはマクロ経済スライドがあり、物価対応しているわけですが、それでも足りないならその計算式を変えるなりの調整はある程度可能かと思います。なぜなら物価が上がるということは財源の運用益も一般にはそれ以上に生まれるはずであり、物価高による財源確保は普通は可能なはずなのです。

今、金利をいじれないのは国民や中小企業への影響が大きいという理由と同時に日銀そのものが詰んでしまうリスクではないかと察しています。それ以上に低金利をこれほど長期間維持したことで国民と企業に物価への耐性がなくなったというのが海外に住む者の見方です。つまり、日本は変わることをことごとく嫌うのです。税金をほとんど払っていない中小企業を温存するのはなぜだろう、日本はゾンビがそんなにお好きなのだろうか、と思うのです。

ですので党首討論がパッチワーク政策になるのは当然で特に岸田氏は優しく寄り添うタイプですから逆立ちしてもブルドーザー型にはなりません。もちろん、突然全部を作り直すことはできないのですから、20、30年かけてでもそれをプランしていく、その為に夢と希望と将来の日本の再構築の青写真を見せてほしかったのです。これぞ党首の語るべきビジョンではないでしょうか?

多くの政治家の最大の間違いは「財源はあるじゃないか」という点です。財源があればそれを使えばいいと言い続ければいつかはなくなります。では将来、大震災や戦争が起きてそれこそ復興資金が必要な時、どうしますか?国債は現在は国内市場と日銀でほぼ消化されるのが当たり前ですが、超大規模の資金を要する時は海外で国債を売らねばならないのです。その備えはあるのでしょうか?

財源は平常時は健全にそして積み上げる、そしてそれよりも国家の足腰を筋肉質にする、そうしないといけないのですが、この討論には骨がなかったというのが私の感想です。

日経に「消費者物価は4月に2.1%(生鮮食品除く)まで上昇した。日銀の見通しでは2023年度には再び1.1%まで低下する。政府もいまの物価上昇はロシアによるウクライナ侵攻に伴う特殊要因が大きいとみる」とあります。個人的にはいくら日本でも来年度に物価が1.1%まで落ちるとみるのはかなり楽観視だと思います。

世界のエネルギー、資源、食糧に対する爆発的需要はこれから。中国のバク食い復活もあり得ますし、インドも今後は大消費国になるでしょう。とすれば輸入財の価格は必ず上がるのです。海外における物価は一度上がればさほど下がりません。理由は人件費が上がっているからであり、給与は簡単に下げられないので物価の弾力性は少ないのです。

とすれば日本はパッチワークなどをしている場合ではなく真剣に物価高に耐えられる経済構造を作ることこそが最大のテーマではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月22日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。