共産党の「内部留保課税」主張
今回の参議院選において、日本共産党は大企業への「内部留保課税」を主張している。それによれば、4百数十兆円にまで積みあがった内部留保を賃金引き上げや、消費税減税の代替財源として、これに対して、資本金10億円以上の大企業に毎年2パーセント、5年間で10パーセントの課税をすべきであるというものである。
「内部留保課税」の主張は、過去にもあった。2017年の衆議院選では小池百合子氏が代表を務めた「希望の党」が消費税減税の代替財源として公約に盛り込み、批判を受けてその後軌道修正した。
2021年10月の衆議院選では、社民党が3年間消費税をゼロにするための財源として、大企業の内部留保に課税する政策を掲げ、今回の参議院選でも「内部留保課税」を主張している。
自民党の高市早苗政調会長も2021年10月13日民放テレビ番組で、賃上げのための私案として、「現預金課税」を主張した。
デメリットが多い「内部留保課税」
まず、「内部留保」とは、貸借対照表の自己資本の一部、すなわち企業の毎年の当期純利益から、配当や法人税などを控除した残りの「利益剰余金」を指す。これはストック(蓄積)である。財務省の法人企業統計によれば2020年度の「内部留保」は484兆円に上っている。
これはストック・ベースの「内部留保」であり、企業にとっては資本である。資本の蓄積は現預金や金融資産だけではなく、設備投資などの実物資産も含まれる。そうすると「内部留保課税」は設備投資にも課税されることになり、設備投資を減らすことになりかねず、経済活動を停滞させる。
また、設備投資ではなく現預金に「内部留保課税」をすれば、銀行借り入れ等でも現預金は増えるから、企業は借入ができなくなる。なぜなら借り入れで負債が増えているのに課税されることになるからである。
危険な労働生産性無視の「内部留保課税」
仮に、企業が「内部留保課税」を回避するために労働生産性を無視した賃上げをした場合は、利益剰余金は減少し「内部留保課税」回避の効果が生じるが、その分企業の体力は減退する危険性がある。これは日本経済全体にとって明らかにマイナスである。
このように、内外からの厳しい競争にさらされている企業にとっては、労働生産性の向上による競争力の強化が不可欠であり、これを無視した賃上げをもたらしかねない「内部留保課税」は日本経済にとって危険である。
「二重課税」の矛盾
企業の「内部留保」は、緊急時でも雇用を守り、従業員の給与を保障するための保険として積み立てられている側面が強い。したがって、仮に、画一的な「内部留保課税」が行われれば、企業の体力が大きく削がれ、コロナ禍のような緊急事態の発生時には大規模なリストラなどが不可避になる。
そして、何よりも、欧米諸国に比べて高い法人税(実効税率29.74%)を納めた後に、再び「内部留保課税」が課されれば、明らかに「二重課税」であり、大企業の体力を減退させ、国際競争力を著しく劣化させる危険性が大きい。共産党の「内部留保課税」は相変わらず大企業(独占資本)を敵視しており危険である。
賃上げや設備投資の促進は、大企業への懲罰的な「内部留保課税」ではなく、政府と民間の連携協力による強力な経済成長戦略(情報通信・先端科学・エネルギー産業等)の遂行によるべきである。