動画配信がネットを脅かす?!

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今から4半世紀以上前の1995年、LANシステムの標準的規格イーサネットを発明したことで知られるボブ・メトカーフ博士は、1995年12月に、有力なネット雑誌「InfoWorld」のコラムで「インターネットは間も無く巨大なエネルギーを持つ超新星となり、1996年中に破滅的に崩壊する」と予言しました

博士は講演会でもこの予言を繰り返し、「外れたらコラムを食べる」と公言していました。ところがネットは崩壊しなかった。そこで記事を食べるという約束を果たすことを迫られます。1997年4月、場所はカリフォルニア州サンタクララで開催中だったWorld Wide Web Conferenceの会場。

この模様は、この会合に参加していた早稲田大学の後藤滋樹教授がインターネットマガジン1997年7月号のコラムでユーモアたっぷりに報告されていますが、氏は覚悟を決めて登壇していたようで、「インクには毒がある。でも僕には家族がいる」という泣き落とし。でもそれが効くわけもなく、最終的には用意したミキサーに記事を放り込んで、水と共に攪拌して飲んでみせたそう。

この件は、インターネットへの関心が高まっていたこともあり、海外のネットメディアで話題となり、私も記事にしたのでよく覚えているのです。

でも、なぜこの件を思い出したかと言うと、日経ビジネスの「動画配信、5年後に制限も」という記事に目が止まったからです。発信者は国立情報学研究所の佐藤一郎教授。

ネットはYouTubeやNetflixに代表されるストリーミングによる動画配信が大流行り。光ファイバー網が世界中に張りめぐされたおかげですが、実は発信するのに膨大な電力がかかっているのだそう。

科学技術振興機構が2021年に発表した「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響」によると、動画の氾濫でICT分野のサーバーやストレージなどの電力消費は加速度的に伸びているそう。

流行り出しそうなメタバースに対応してユーザーのパソコンも高機能化することなどを考えれば、ますます電力消費は増えて、今でさえ、節電を訴える電力需給ひっ迫警報や注意報が出たことを考えれば、そのうち、動画配信側で、消費電力削減のため、解像度を下げるなどの対応が迫られのは避けられないので、議論を始めるべきだ、というのです。言葉にはしていませんが、これ以上の動画配信はネットの存立を脅かしかねない、という警告でしょう。

ちなみにカナダのIT関連企業Sandvine社の GLOBAL INTERNET PHENOMENA REPORT JANUARY 2022によると、世界のトラフィック量をカテゴリー別に見ると、ビデオが過半数を占め、アプリ別ではYouTubeとNetflixの二つで4分の1だということです。

さらに、全国の児童・生徒にパソコンやタブレットが配布され、今後、全員が一斉に授業で、家庭で使い出せば、その消費電力もばかにできないのではないでしょうか。児童・生徒の関心と理解を深めるために教材にも動画が多用されるでしょうから。

それやこれやで、動画配信ブームを放置しておけば、いずれ「計画停電」の一因に結びつくかもしれません。そうなれば家の中でWiFiも飛ばず、パソコンは事実上使えず、スマホがあると言っても、WiFiなしでは動画をおちおち見られない、という事態が迫っているのかも、ということでメトカーフ博士のインターネット崩壊の予言を思い出したというわけです。

その予言のコラムは、ポルノが溢れてトラフィックが激増することがネット崩壊の一つにあげ、ユーモアたっぷりにこう締めくくりました。「そのうち、FedExで届くCDーROMが情報ハイウェイになるかも」。しかし、停電になったらCDやDVDのプレイヤーも動かない!

巷ではau携帯が繋がらないと大騒ぎだったので、ちょっと触発されました。もう、ネットのない生活は考えられないので。


編集部より:この記事は島田範正氏のブログ「島田範正のIT徒然ーデジタル社会の落ち穂拾い」2022年7月4日の記事より転載させていただきました。