ドル一極集中がもたらす弊害:アメリカは基軸通貨の責任を放棄している

スリランカが破綻しました。5月に既に国債の利払いを止めていたのでその時点でデフォルトしていたのですが、今回、スリランカの首相が議会演説で「破綻」を宣言したというものです。デフォルトより一歩踏み込んだ形で「失敗国家」と称し、政府が国民に基本サービスの提供(インフラや食糧の供給)すらできない状態を意味します。

今後どうなるのか、IMF、ADB, 世界銀行との協議を行うようですが、近年のデフォルトである1998年のソ連や2001年のアルゼンチンは国債の元利払い不履行で再生の方法がありました。あるいはアジア危機で韓国が詰まった時もIMF管理下で再生できました。しかし、スリランカの場合、完全アウトでここまで詰まってしまうとどこから手を付けるべきか相当苦戦すると思われます。

ちなみにスリランカの破綻は兄弟で大統領になったラージャパクサ一家の横暴が全てであります。中国のハンバントタ港租借権問題は一つの間違いですがあまり過剰に見るべきではないでしょう。政府レベルの債権でみれば中国と日本は同じぐらい全体の10%程度ずつを貸し込んでいます。但し、正確には分からないですが、この中国政府の10%程度の債権には中国国営企業の融資が含まれておらず、債務全体の半分近くある「その他市場からの借り入れ」に相当額含まれているようです。

さて、私が懸念するのは破綻予備軍は他の国にもある点です。パキスタンはその候補の一つですが、今後、アジア危機の再来のような状態が生じないとは限らない点です。アジア危機もアメリカが利上げを進めた過程で起きています。アメリカの利上げは基軸通貨という役割があるため、FRBはもっとグローバルな観点で金利水準の決定をする必要があるのですが、パウエル議長の発言を何度聞いても国内経済のことしか捉えていません。つまり基軸通貨であるにもかかわらず、その責任を放棄しているようなものでアメリカの強力な利上げは他の通貨を極めて弱体化させ、世界経済にヒビが入ることに見ないふりをしているような状態です。

パウエルFRB議長 Board of Governors of the Federal Reserve System Fbより

例えばユーロは対ドルで20年ぶりの安値、フィリピンペソが17年ぶり、韓国ウォンも13年ぶりの安値になっています。円も20年ぶりと対ドルで安いのですが、体力がある国家とない国家で明白な差が出てしまいます。

とすれば現在の通貨の仕組みには根本的問題が当然あるわけですが、アメリカはどんなことがあっても基軸通貨としてのドルの地位を手放さないはずです。それゆえにアメリカ経済が成り立っているし、中国と対峙できるわけです。仮に世界の基軸通貨がドル以外になった場合、世界地図は一瞬のうちにして変わるでしょう。アメリカは簡単に崩壊します。つまり、どれだけ文句があろうとも今の状態を続けざるを得ないというジレンマがあるとも言えます。

アメリカも世界のあちらこちらが厳しい経済環境になることを放置することを良しとはしないでしょう。私の記憶が正しければバーナンキ元議長がドルと新興国経済の関係に触れ、慮る発言をしたことがあります。イエレン氏のそれは私には記憶がありません。同じアメリカ大陸のアルゼンチン危機の方がアメリカにとってよりインパクトがあり、かつてメキシコが経済危機になった時などは反応しやすい状況でした。その点で南アジアはアメリカにとって遠い国ということなのでしょうか。

ウクライナの復興会議でその必要資金は100兆円とされます。ウクライナ主導でその復興を進め、その資金の透明性を監視するルガーノ宣言が出ていますが、これもまだほとんど具体的なプランはありません。今、地球上で莫大な資金をあちらこちらで必要としているわけです。IMFや世界銀行がハンドルし、管理できる規模ではありません。

この状況をどう改善するのかですが、私はまずはアメリカが利上げ圧力を下げることに重きを置くべきと考えます。ここにきて原油価格が急落しました。予想通りです。多分、上げ下げをしながら時間をかけて70㌦台まで下げると読んでいます。専門家の予想は真っ二つに割れています。高値を維持し、バレル当たり120㌦水準が続くとみる予想と私のように下落見込みの両方です。

以前、申し上げたように原油価格の決定が実需よりエモーショナルに決まりやすいため、例えばウクライナ問題が以前ほど話題の中心にならなくなり、経済の先行きをリセッション(景気後退)とみる向きが増えれば原油や資源価格はトントンと下げることになります。そうなればガソリン価格などには即座に反応が出るので消費者物価指数は急激に収まってしまうのです。仮に今の原油100㌦割れが続くなら7月の消費者物価指数が発表される8月にはその結果が見て取れるでしょう。

ならばFOMCが9月以降、利上げに強気になる理由はなく、為替はドル弱含み、資源通貨であるカナダやオーストラリアドルも弱くなり、円や新興国通貨が買われやすくなる大転換が起きる予想がありえなくはないでしょう。一方、国債の利回りは下がりますので株価、特にナスダックにはプラスというのが流れになります。株価については底がどこにあるかわからないとする見方が依然強いのですが、私はここから下げても知れている範囲とみています。

いずれにせよ、世界経済の混とんの原因もそれを回復させることもアメリカ次第という状況は変わりないと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年7月7日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。