ロシア軍のウクライナ侵攻以来、欧州の安全保障問題への取り組み方が大きく変わってきた。最大の変化は、北欧の中立国スウェーデンとフィンランド2カ国の北大西洋条約機構(NATO)加盟だろう。
北欧2カ国の加盟議定書にNATO30カ国が5日、ブリュッセルの本部で署名したことを受け、加盟国の批准手続きが完了すれば、両国の加盟は年内にも実現する見通しとなった。フィンランドのNATO加盟で対ロシア国境線は約1300キロ長くなる。NATOはマドリードの首脳会談で軍の強化を決め、緊急部隊を4万人規模から30万人規模に拡大する計画だ。
ロシアに対する兵力の増加が不可欠となった
外電によると、バルト3国(リトアニア、エストニア、ラトビア)の一国、ラトビアは5日、徴兵制を再導入すると発表した。ラトビアのアルティス・パブリクス国防相は、「ロシア軍のウクライナ侵略に対応するためには、わが国の軍事システムは限界に達している。ロシアが近い将来、その侵略性を放棄する保証はない」と説明し、兵力の増加が不可欠となったことを明らかにしている。
同国防相によると、兵役は来年に導入され、男性にだけ適用される予定だ。また、新しい軍事基地を建設する計画という。どこに、どのような軍事基地かは明らかにしていない。ロシアのプーチン大統領は、「わが国に近い場所でNATOが新たな軍事基地を建設すれば、それは明かにロシアへの脅威と受け取られる」と警告するなど、バルト3国の軍事活動に対しては神経を尖らせている。ちなみに、ラトビアの総兵力は7500人、NATO軍兵士1500人が駐留している。
なお、バルト三国は2004年3月、NATOに加盟してから数年で徴兵制を廃止した。ラトビアは2007年以来、軍は職業軍人で構成されて、ボランティアで構成された志願兵が存在するだけだ。
ウクライナの首都キーウからの情報によると、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5日、ビデオメッセージで、ウクライナでの徴兵制の登録要件に対する厳しい批判を受けて、「私は問題を明確にすることを国民に約束した。私を除いてそのような決定を下さないでほしい」と軍の指導部を非難し、次回の参謀総長会議では、国防相、参謀長、陸軍最高司令官が大統領に詳細に報告するように要請している。
陸軍最高司令官のヴァレリー・ザルジニー総司令官は、「徴兵されたウクライナ人が自分の報告地点を離れるには許可が必要である」と発表したが、国民から厳しい批判と不満の声が出た。それを受け軍は、「政府地区を離れる場合にのみ必要」と付け加えた。
ウクライナの男性は18歳から60歳の間に徴兵されるが、ロシア軍の侵攻後、戒厳令が敷かれ、徴兵年齢の男性が国を離れることは許可されていない。今年10月からは、特定の職業グループの女性も兵役に登録されることになるという。
「意味のない戦争」に駆り出されるウクライナ・ロシア両国民
プーチン大統領がウクライナに軍を侵攻させて以来(2月24日)、ウクライナ軍と国民は軍事力で圧倒するロシア軍に対し果敢に抵抗し、ロシア軍のキーウ制圧作戦を破るなど、その国防意識、兵士の士気の高さに欧米諸国は驚き、感動してきた。
ウクライナ側はこれまでロシア軍に対抗するために欧米側に先端武器、重火器の供給を強く要請。第2次世界大戦後、紛争地域への武器の輸出を禁止したドイツもウクライナに武器を供給することで支えてきた。
しかし、戦争が長期化し、多くの民間人にも犠牲が増えてきたことを受け、ウクライナ国内でも戦争に不満の声が聞かれる。ウクライナ軍幹部が徴兵年齢の国民に対する国外出国を厳しく統制するとソーシャルネットワークなどで国民の批判の声が高まったのは実例だ。同時に、ロシア軍がその軍事力を強化し、東部、そして南部で攻勢を集中してきた一方、ウクライナ軍が守勢に回ることが多くなってきた。
ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官は5日、ロシアによるウクライナ侵攻を「意味のない戦争」と呼んで非難した。同弁務官によると、2月の侵攻開始後、7月3日までに4889人の民間人が死亡、うち335人が子供だったという。実際の死者数はこれをはるかに上回るものと受け取られている。
「意味のない戦争」に駆り出される若いロシア兵の士気が上がらないのはやむ得ないことだが、ウクライナ兵士にも戦闘疲れが見えだしてきた。ウクライナ戦争は長期化の様相を深め、ハード(武器)とソフト(兵士、国民の士気、祖国愛など)両面の消耗戦になってきた。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年7月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。