市場は夏休み:秋に向けて不安材料は多い

安倍元首相が選挙応援演説中に凶弾に倒れるという歴史的事件が発生した直後のこの参議院選挙の興味はその行方というより「こんな日本になぜなったのか」という大いなる反省と国家運営のかじ取りの抜本的見直し、及び再構築が求められているのではないでしょうか?「民主的」に選ばれた政治家による政治ショーをまるでテレビ越しに見るエンタテイメントのような他人事にしてよいのでしょうか?

我々が直面している問題は何なのか、表面的な言葉で流すのではなく、全ての人が考え、立ち上がるべき事態だと声を上げてもらいたいと思います。

では今週のつぶやきをお送りします。

市場は夏休み

先週のこの項で「ふらつく相場」と申し上げました。明白な方向感ない状態が続いており、チャート的には日米共に三角持ち合いチャート形成に向かっているように見えます。これは相場に方向感が乏しくなると株価が一定のところに収れんしやすくなり、最終的に上か下に放れることを言います。

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もしもこの見方が正しいなら収れんのポイントは7月下旬のFOMCだろうと予想できます。ただ、そのFOMCに最も影響を与えるであろう消費者物価指数の発表が7月13日ですのでこの数字の出方次第では市場が創造力を膨らませて三角持ち合い解消になるかもしれません。

私がもう一つ注目しているのはビットコインの相場。この1-2カ月、ぼろくそに叩かれ、仮想通貨ファンドの解散やら市場を取り巻くネガトーン一辺倒のニュースに対してビットコインの相場は打たれ強く2万ドルをも割り込んだもののここに来て一時22000ドル台を回復するなど足元がしっかりしてきました。ナスダックの売り込まれた多くの銘柄も下げ止まっており、下値抵抗力が出来ているのが見て取れます。もちろん、これで「すわ、買い」だとは全く思っておらず、私は冷静にSit backして様子見を決め込んでいます。

秋に向けた不安材料は多く、ウクライナの行方、中国の政治、経済、コロナ対策の三つ巴の動き、アメリカ中間選挙、英国保守党党首選、そして日本も安倍氏無き自民党内部の混乱はあり得るとみています。共通のキーワードは「押さえが効かない」でバラバラの社会が生み出されそうです。

新興国の不安も大きいです。私が入居する事務所の受付嬢がスリランカの移民で曰く、「IMFの手助けでどうなる状況じゃない。スリランカの中国化は想像以上のものだ」と憤懣やるせない勢いで述べていました。ブルームバーグによると次なる破綻予備国としてガーナ、エジプト、チュニジア、パキスタンを挙げ、それ以外にも予備軍が控えている状況です。残念ながら不安のネタは多いようです。

働かない、働きたくない、何故だろう?

7月8日に発表になった6月のアメリカ雇用統計は事前予想を上回る372千人増で着地。失業率は変わらず、平均時給は前月比0.3%増、年換算で5.1%増。労働参加率は62.2%と前月比1ノッチ悪化程度で収まっています。

労働市場が強いということはアメリカは引き続き景気が良いのだろうというスタンスをサポートします。興味深いのは同日発表されたカナダの雇用統計が想定外のマイナス43千人となる一方、失業率は史上最低を更新した点です。これは労働参加率の低下が原因と分析されています。

カナダはアメリカよりリベラルですので賃金が上昇しても仕事をしたくないという世の中の傾向をより映し出しやすい傾向があります。これが現代社会のバイアスだとすればアメリカにもこの流れは早晩、伝播するでしょう。

この理由はいろいろ想像できますが、私の一つの仮説は若者の粘り強さやコミットメントが薄弱になった点はあるとみています。これは日本でも同じ現象が起きています。とすれば企業は今後、労働力よりロボットやAI化を進めざるを得なくなり、働く者と働かない者という新たなる格差が生まれる公算はあります。

なぜ、働かないのかですが、先進国の成熟化により生まれながらにして子供たちがクオリティのよい生活環境を享受できるからだとみています。では働かないでどうやって食っていくのだ、という疑問に対して民主的平等意識のもと「政府がそれをサポートしてくれればよいだろう」「働く人が我々にパンを恵んでくれるだろう」という弱者優位の奇妙なロジックが展開されないとも限りません。

ベーシックインカムの考え方を更に一歩進めるとこのような極端な発想も正当化されなくはありません。少なくとも我々が汗水たらした社会とは比較対照にならない時代だとも言えそうです。

G20外相会議が映し出す対立軸

G20外相会議がインドネシアで開催されましたが、同国のジョコ大統領がロシアを招待したことが話題になっていました。最近の国際会議ではロシア代表が参加、発言する際、一部の代表が退席するという「無言の抵抗」を示していました。今回の会合でも前夜の非公式夕食会では林外相が夕食会をボイコットしていますが、本格会議では「無言」から「激しいバトル」へと180度戦略が変わってきています。

海外で長く生活してきた者として言わせてもらうと「無言の抵抗」は欧米のしきたりとしてはあまりメジャーではありません。言うことは言う、討論、議論、バトルといった激しい言葉の応酬こそが本質的な会議のスタイルです。例えば英国議会のシーンをテレビでご覧になった方は多いと思いますが、長椅子に座りきれない議員は床に座り、立ち見をし、与野党が至近距離で口角泡を飛ばすとはこのことで、激しくやり合います。

G20が地球上のGDPの90%、貿易総額の80%、総人口の2/3、土地面積が1/2という巨大組織であり、権威主義、民主主義、第三国の三極が何かの合意点を見つけることは妥協の産物でしかないのですが、各国を代表する外相の立場としては能力を問われることになります。

となれば自陣の主張をいかに正論のように述べ、賛同を得るのか、というパフォーマンス合戦になり、対立軸による国家の色が先にありきで決して実りある会議にならないのです。事実、今回のG20は散々でした。ならば成果を期待せず、コミュニケーションの場として割り切り、対話を通じた長期的な解決策を模索する会議と考えた方がよさそうです。無駄な努力にならないことを祈ります。

後記
先週、KDDIが大規模通信障害を起こしたばかりですが、カナダの金曜日東部時間早朝、ほぼ全土で通信障害が発生、携帯が使えない、銀行の送金ができない、店舗のデビットカードの処理ができない、救急に連絡できないなどその衝撃は極めて大きいものになりました。

不思議なのは東部の大手通信会社で起きたトラブルが提携先の他社の通信機能にも影響し、信じられないほどのインフラの脆弱性が当地でも起きました。これを見ると「データの時代」にあまり頼れないと思ったのは私だけではないでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年7月10日の記事より転載させていただきました。