1. 1人あたりGDPの長期停滞
前回までは、日本の労働者の変化についてフォーカスしてみました。男性も女性も非正規雇用が増えている傾向ですが、特に女性労働者では全体の50%に達している事がわかりました。
日本の経済は、他国と比較して非常に特徴的ですね。先進国でほぼ唯一平均給与やGDPが停滞しています。
1人あたりGDPは、1人1人の国民の豊かさや平均的な生産性を示す指標です。国際比較する際には、平均所得と並んで大変重要な指標だと思います。
日本の場合、どちらも1990年代をピークにして、停滞が続いています。このような状況に対して、ツイッターなどでもいろいろなご指摘をいただいています。
- 日本は高齢化が進んでいるのだから1人あたりの指標にしたら他国に後れを取るのは当然
- 名目値で評価したら停滞しているが、実質値では他国並みに成長している
- 1990年代はバブルによって嵩上げされた時期であり実力値以上に数値が高まっていただけで、現在の数値が日本の実力相応
1.については、日本は少子高齢化が進んでいるため、生産年齢人口の比率では他国よりも低いですが、そこまで大きな差が見受けられません。
2018年の数値で見ると、日本で55%、フランス56%、イギリス58%、アメリカ59%、ドイツ60%といったあたりです。
少子高齢化の1人あたり指標への影響については、これら主要国とは現在のところせいぜい数%程度と言えそうです。(参考記事: 少子高齢化する先進国)
2.については、そもそも名目値が停滞していて実質値が成長している状況自体が異常ですね。そして、「実質GDP」は成長していても、「実質賃金」が停滞しているのも特徴的です。これは、実質化する際のデフレータの違いも影響しているようです。
図2は、日本の名目GDPについて、GDPデフレータで実質化した場合(青)と、消費者物価指数(CPI)で実質化した場合(赤)の比較です。
GDPデフレータで実質化すると右肩上がりの成長になりますが、消費者物価指数で実質化すると横ばいのままです。
日本はこの二つの物価指数に乖離がある事も特徴的ですね。(参考記事: 物価指数の違いとは!?)
一般的な経済成長は、名目GDPが成長していて、物価上昇分だけ実質GDPも目減りしながら成長する関係です。
日本の場合は、名目GDPが停滞していて、物価が下落した後停滞し、その分実質GDPが嵩上げされて成長している状態です。実質GDPは金額ではなく数量的な生産量という意味になります。
日本は、たくさん作っている(実質GDP成長)けど、稼げていない(名目GDP停滞)という状況です。そして、労働者の賃金は低下してしまっています。
少なくとも、「実質GDPが成長しているから日本は豊かになっている」とは言い切れないように思います。
この実質と名目の不思議な関係は、次回取り上げる予定です。(参考記事: 「実質」と「名目」の違いとは?)
今回は、3.のバブルの影響についてフォーカスしてみましょう。
2. 日本の1人あたりGDP
まずは日本の1人あたりGDPについておさらいしておきましょう。(参考記事: 「衰退先進国日本」の実態とは)
図3は、OECD各国の1人あたりGDPについて、名目値のドル換算(為替レート換算)したグラフです。
購買力平価換算ではなく、為替レート換算としているためジグザグして見にくいですがご了承ください。
日本は1990年代中盤にアメリカやドイツよりも高い水準に達しましたが、その後横ばいが続いています。
日本が停滞している間に、他国は成長していて、直近では既にOECDの平均値と大して変わらない水準に埋没しています。
図4は、1人あたりGDPの数値を高い順に並べたグラフです。左が日本経済のピークとなった1997年、右が直近の2019年のグラフとなります。
1997年の時点では先進国の中でも4位と極めて高い水準で、平均値の2倍近くだったことがわかります。
2019年には、OECD37か国中19位に大きく後退し、平均値をやや下回る水準です。
3. バブルがなかったら!?
日本は「バブル」と「バブル崩壊」を経験しています。主に1985年からバブルが発生し、1990年にバブルが崩壊したといわれますね。日本の企業が変質し始めたのも、バブル崩壊が転機になっています。(参考記事:デフレで企業が儲かるのは何故?)
この間、日本の企業部門でも、極端な借入金や生産資産(供給力)の高まりがみられ、その後停滞している状況です。
図5がバブル直前の1984年を基準(1.0)とした、OECD各国の1人あたりGDPの成長率(各国通貨ベース)です。1984年から一定年率で成長した場合の線も追加しています。
日本は1997年からやや減少し、停滞が続いています。他国は基本的に右肩上がりで成長していますね。2020年のデータがある国ではコロナ禍の影響と思われる低下がみられます。
低成長のドイツやフランスでは、年率3%相当の成長をしているようです。アメリカで4%相当、イギリスで5%相当といった成長率ですね。
日本だけ長い間停滞しているのがよくわかると思います。
図6が、日本の1人あたりGDPについて、実際の推移(黒)と、1984年を起点とする年率一定の成長率の場合のグラフを追加したものです。
年率1%成長(青)、年率2%成長(赤)、年率3%成長(緑)になります。
実際の線がバブルによって嵩上げされているとしても、その後の停滞があまりに長い事がわかります。
例えば年率2%成長のラインと比較すると、まずは実際の数値が先行して上昇していますが、その後横ばいになっている間に、2008年以降で抜かれて差を付けられています。
2020年の直近値では、実際の数値は430万円ですが、年率2%成長でも2割以上の101万円高い水準です。
低成長なドイツやフランスでも1984年に対して3%成長相当ですので、2%成長にも達していないというのは極めて異常な事態ではないでしょうか?
最低限の2%成長でも531万円、ドイツやフランス並の3%成長で754万円、アメリカ並の4%成長で1,068万円に達していた可能性があるわけですね。
例え一時的にバブルの影響があって嵩上げされていたとしても、その後の停滞期間があまりにも長すぎるように思います。
バブルによって急激に過剰な成長をしてしまったが故に一層停滞が長引いているのか、それ以外の要因があるのか、素人の私にはわかりませんが、必要以上に停滞期間が長引いている事は間違いないように思います。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2022年7月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。