全国から1000人の首長がドラギ残留を懇願
イタリアのドラギ首相が7月14日、マタレッタ大統領に辞表を提出。理由は6政党による超党派で17か月前に成立した内閣が危機に直面。6政党の中で最大勢力の五つ星運動(M5S)がドラギ首相への信任投票に棄権したのが理由であった。ドラギ首相は以前からM5Sからの協力が得られない政府の継続は困難だと表明していた。
マタレッタ大統領はそれを受理せず、またイタリア各地からおよそ1000人の首長が首相としての継続を懇願。さらにEU委員会や米国政府を始めウクライナのゼレンスキー大統領からも辞任を留まるように要請があった。これほどの要望を受けたドラギ首相は思いとどまることを決定。
イタリアのひとりの首相の辞任意向に対し、イタリア全土さらに世界から残留を促す要望が届いたのは前代未聞である。というのも、ドラギ氏が首相のポストから去ればイタリアはまた頻繁に首相の代わる国に戻ってしまう可能性が高い。現在のイタリアはEUの中で3番目に位置する経済力を持っている国で安定政権の継続が必要である。
しかもヨーロッパがロシアとウクライナの戦争に巻き込まれている中でイタリアの政情不安は誰も望まないところである。
ドラギ首相は欧州中央銀行の前総裁でユーロの安定化に高い貢献度を示したという実績もあり、彼への信頼はイタリアを始め世界でも厚い。現在の彼に代わる人物はイタリアにはいない。
右派3政党がドラギ首相の継続に反対を表明
ところがイタリアの右派3政党、同盟、フォルツァ・イタリア、イタリア同胞はドラギ氏というテクノクラートで、しかも個性の強い人物がこれからも首相として続投することに苛立ちを感じていた。
イタリア各地の首長やEU委員会を始め世界からドラギ氏の首相としての続投への要望とイタリア国民の間でも60%以上がドラギ首相への支持を表明。ということからドラギ氏も新ためて首相の任を継続する決心を固めて上院に信任を図った。ところが、上述の右派3政党が棄権したのである。その結果を受けてドラギ氏は政権継続は困難と見て辞任を決心した。このような状況になっては、彼の政権継続は難しいと判断したマタレッタ大統領はそれを受理した。
五つ星運動は分裂する方向に向かっている
今回の造反の起因をつくったのはM5Sがドラギ首相への1回目の信任投票で棄権したことであった。M5Sはポピュリズム政党として2018年の総選挙で33%の支持率を得て最大政党になった。しかし、どの国もポピュリズム政党の凋落は顕著で現在の支持率は10%も満たない政党になっている。しかも、同党は分裂しており、外相のルイジ・ディ・マーヨ氏は既に離党し、下院と上院から61人の議員が彼と行動を共にして離党。また最近も30人余りの議員が離党を表明している。
ということから、仮に総選挙を今実施すればM5Sは議会から姿を消す可能性も十分にある。それを承知でリーダーのコンテ前首相はドラギ首相に反旗を翻したのである。
そこには党内部からコンテ前首相に圧力があったと予測されている。彼の意向は夏が過ぎるまで内閣を分裂させるような動きはしないと表明していたにも関わらずだ。
M5Sはドラギ首相が組閣する時点から彼とコンテ氏との間にはフィーリング的にうまく噛み合わないものがあったようだ。そして、ドラギ首相のウクライナへの武器供給などの積極的な姿勢やインフレ対策に対しM5Sは批判的である。ヨーロッパで現在もっとも汚い都市と評価されているローマ市への政府の衛生対策に対してもM5Sは反対を表明している。因みにローマ市はM5Sの女性議員が市長に就任した時が最も汚染が激しくなった時であった。
コンテ氏の党内を掌握する力量不足と今回のドラギ首相への信任を棄権したことについてレンツィ元首相は「エル・パイス紙」とのインタビューの中で次のように述べている。「コンテ氏は宝くじが当たって偶然首相になった人物だ。彼は政治の芸術を知らない」と語った。コンテー氏は大学の法学部の教授で、極左のM5Sと極右の同盟が連立政権を作る際に両党に差しさわりの無い人物として首相としてM5Sが連れて来た人物であった。ということから、本来の政治感覚に欠けているということなのである。
次期総選挙で右派の連合政権が誕生する可能性が高い
このM5S造反を上手く利用したのが右派政党である。ドラギ首相が辞任したことによって総選挙をやらざるを得ない状況となり、総選挙は9月25日となった。
右派3政党の中で現在最も支持率が高いのは22%のイタリア同胞である。同党はドラギ首相の連立政権には当初から参加せず野党に回っていた。その党首ジオルジア・メロニ氏はイタリアで初の女性首相になる可能性がある。しかし、同盟のサルビニ氏もそのポストを狙っている。
イタリア同胞はスペインの極右派のボックスと連携している政党である。
ということから、イタリアの次期政権は右派になる可能性が高い。仮に右派の連立政権が誕生すれば、特に同盟はロシアへの制裁に反対している政党でもあり、対ロシアに強硬な姿勢を継続しているEU委員会にとってイタリアの右派による新政権はそれを弱めるアキレス腱になる可能性もあると懸念されている。