田原総一朗です。
7月21日、「ファイナルアカウント 第三帝国最後の証言」という映画の公開イベントに参加した。この映画のテーマは、ナチスによるユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」だ。
監督のルーク・ホランド氏(故人)は、母方の祖父母を、ナチスのホロコーストによって殺害された。ホランド監督は2008年から10年の歳月をかけて、250以上のインタビューを行ったという。
元ナチス親衛隊、ドイツ女子青年団、国防軍、ナチスドイツの子どもたち……「加害者」側の証言ドキュメンタリーだ。彼らは高齢化しており、証言を得るには、ぎりぎりのタイミングだったろう。
生々しい証言をよくぞここまで集めたと思う、すごい作品だった。改めて考えたのは、ナチスの政治は「宗教化」していた、ということである。
デモクラシーの政治は、自分と違う価値観を認める、ということである。今の日本でいえば、自民党、立憲民主党、公明党、共産党など、主義主張が違う多くの党が存在する。多様な価値観が認められているからだ。
しかし、ロシアや中国などは違う。基本的には政府と違う考え方を認めていない。違う考え方を認めず、そうした発言があると、場合によっては処罰される……。非常に危険なことである。実際ロシアは戦争へと向かってしまった。
この映画に登場する証言者たちに、私は自分を重ねていた。日本もまた、1945年の敗戦までは、ナチスと同じように政治を宗教化していた。異論を排し、ひとつの価値観で国を統一しようとしていたのだ。
私の子ども時代、「この戦争は、植民地になっている、アジア諸国を解放する、正義の戦争だ」と教わった。小学校の教師は、「お前たちも早く大人になって、お国のために立派に戦死しろ」と言われた。
私はその言葉を信じ切っていた。当時、「日本のため、正義のため」と言われれば、何でもしただろう。ナチスの子どもたちも、当時の日本の子どもも、同じである。
私は実際に、海軍に入って闘い、敵を倒して見事に死ぬことを夢見ていた。ところが小学5年の夏に敗戦を迎えると、教師の言うことは180度変わった。「日本は間違えていた。アメリカやイギリスが正しいのだ」と。
あまりの豹変ぶりに、私は「偉い人の言うことは、鵜呑みにしてはいけない」と心に刻んだ。この体験がジャーナリストとしての、原動力となったのである。日本を絶対にあのような時代に、戻してはならない。私は常に心に誓っている。
「ファイナルアカウント 第三帝国最後の証言」は、8月5日公開ということだ。ぜひご覧になっていただきたい。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2022年7月29日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。