金利上昇でも住宅価格が下がらない訳:日本は「住宅リストラ」すべき

今回に限らずいつの金利上昇局面でも「金利上昇で住宅市場に打撃」とメディアは報じ、あたかも住宅が売れないから不動産価格が2割3割引きの大バーゲンで買えるというイメージが植え付けられると思います。これは記事を書く記者やアナリストの認識不足です。住宅指標は大きく分けて2つあります。住宅販売件数と平均取引価格です。多くの記事はこの2つを区別しないで書いているので売り手側からすれば持っている不動産価値が下がるのか、あるいは買い手からすれば今買えばお得なのか、という疑問が生まれます。

金利上がると確かに住宅販売件数は下がります。理由は住宅ローンを組む場合にその金利が高く、返済能力がない場合、ローンが組めないからです。例えばアメリカで30年物固定レートなら今は6%超えです。日本の全期間固定金利で1%ちょっとですので6倍の金利です。日本の6倍の金利では正直、いくら払っても元本が減りません。ではそれでも北米で住宅を買おうとする人の理由はなぜでしょうか?

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住宅価格は上がるのが前提だからです。今日物価上昇率が話題になっていますが、私が過去30年、北米で不動産事業を繰り広げた経験で見ると一時的な調整期はありました。1990年代初頭と2007年の住宅バブル後の調整がとくに有名です。リーマンショックを挟んだ時期の住宅価格は概ね2割下落し、その回復が始まったのは2012年頃です。つまりピークから5年間も調整していたのですが、その5年後の2017年頃には2007年のピークを越え、価格は更に上昇していきました。

リーマンショックのころ、一番影響を受けたのは投資家が持っていた物件や別荘、リゾート物件でこれらは激しく下落しました。ただ、それらとまるで性格の違う通常の住宅価格を一緒くたにするのは乱暴、無謀というものです。

アメリカの新規住宅供給は年間140万戸程度で現在金利上昇を受けて更に減少傾向が続いています。ちなみに日本の2022年度の着工件数見込みは85万戸ですので人口が3倍がいて購買力が圧倒的に大きいアメリカでさえこの程度しか住宅が作られない点に着目なのです。となれば住宅の需要は必然的に中古に向かうため、住宅市場は崩れにくいのです。

また日本は築何年という基準で住宅価値をみるかと思いますが、北米は固定資産評価額が基準です。それより上で買うのか、安く買えるのか、という判断です。そして面白いことに評価額のうち、建物部分は上がることもあるのです。日本で住宅価格が着実に下がるのは住宅取得後、ストレートラインで減価償却を反映して評価をするからですが、当地は再建築価格も見ますので建設コストが上がれば住宅価格は減価償却額を超えて上昇するわけです。

アメリカにおける2022年の住宅価格は11%上昇の予想、23年は2%上昇見込みであるのは住宅が売れなければ価格が下がるという一般物価の理論が通じないともいえます。何故か、といえば住宅所有者は下がれば売らない、これだけなのです。ではリーマンショックの際になぜ価格調整に時間がかかったかといえば背伸びをして住宅を買った人たちが破綻し、金融機関がそれらの住宅を競売にかける手続きに時間を要したという事務工数の問題は大きかったと思います。(競売プロセスには1年以上かかります。)

その背景にはやはり住むところは欲しいという所有欲もあります。特にコロナ前の持ち家率は63%まで下落していたのに現在68%まで急騰しています。これも需給関係を引き締めた一つの理由です。

私は今、開発物件の工事中ですが、一筋縄にはいかず、サプライチェーンも切れて毎日が戦いです。例えばここバンクーバーでは現在、生コンが全く手に入りません。現場担当者に来週のコンクリート打設をどうするのかと迫っていたところ「ひろ、good newsだ。生コン、手に入るぞ、現金前払いだけど…」。ざっと250万円分です。大手建設会社ですら生コンが十分に入手できない中で争奪戦が繰り広げられているのです。こうなると工事費は当然上がります。大手が開発する高層物件も工事が全然進んでおらず、工期の2年遅れぐらいはざらになっています。つまり供給面からは手も足も出ない状態だとも言えます。

翻って日本。日経の記事に「家余り1000万戸時代へ 活用か解体か『住宅リストラ』待ったなし」とあります。このトレンドは以前から続いていたもので数年前には空き家800万戸時代を迎えどうするのか、と大騒ぎしました。少子化なのに供給が減らない中で自滅に向かっているとも言えます。

過去、何度も指摘しましたが、これは政府の無策とデベロッパーの目先の利益しか見ないどん欲さの組み合わせであり、30年後の都市計画すら描けない失策の結果です。やるべきことは2つ。1つは標準減価償却の期間(木造22年、RC造47年)を撤廃し、個別審査で現在より5割から10割長い償却期間にするか、新たな償却期間を設定すること、もう1つは緑地整備、災害時の広場確保のため、新規住宅供給を制限し、住宅供給戸数を現在の半分程度まで落とすことでしょう。この2つの施策だけでも日本の住宅価値はたやすく上昇します。一部の建築会社は泣くかもしれませんが、本来であれば30年前にあるべき施策をしなかったツケだということです。工夫すれば改築需要が爆発的に伸びるので生き延び策はあるはずです。

概括すれば北米の住宅価格は異常であり、物件価格の値上がり前提と給与所得者の賃金上昇期待に負うところが大きいとも言え、健全とは言い切れないことは事実。一方、日本は高度成長期に狭隘地に無理な住宅を建てたところが非常に多くあります。例えば横浜地区には悲惨なところが多くあります。崖地、狭隘、前面道路無といった住宅地は政策として今後、「住宅リストラ」すべきでしょう。日本は住環境を整えることが重要であり、山は自然な山に戻すべきです。治水や環境問題、温暖化、都市熱対策などを含めた総合的、かつ長期的な都市計画が求められます。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月14日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。