9月22日のNHKニュースより。
広島県教育委員会の事業をめぐって官製談合の疑いがあると報じられていることを受けて、平川理恵教育長は外部の専門家に調査を依頼するとしていましたが、22日の会見で調査は複数の弁護士がおよそ2か月かけて行うことなどを明らかにしました。
報道によれば「県教育委員会の事業をめぐっては高校生の課外学習を委託する今年度の事業について」、教育長と親交の深い京都市のNPO法人が受注し、それも「教育委員会の職員がNPO法人と事前に価格を調整した」という疑惑がある、とのことである(上記報道)。元々これを報じたのは週刊文春である。
「〈750万円程度に〉平川広島県教育長が親密NPOと「官製談合」に決定的「新証拠メール」
事案の詳細は上記記事に委ねるが、官製談合防止法違反を扱うのであれば、追及すべきは、問題となる行為が「入札等の公正を害すべき行為」(8条)だったかどうか、である。
公共発注者が競争手続を採用した以上は、競争の機能を妨げるような発注者側の行動はその手続と矛盾するものであり、公共発注者としての職務違背と併せて同法違反が構成される。裏を返せば、法的に問題がないというためには、競争の機能を妨げないと考えるか、職務違背がないと考えるか(あるいはその両方)というロジックを展開しなければならない。
確かに、競争入札に先立って業者と何らかのコンタクトをすることは多々ある。受発注者間に情報の非対称があり、業者側からの情報提供を受けなければ必要な仕様も予定価格も組めないケースもある。ポイントは、そういう事前のやり取りをした場合には、他の業者との公平性を維持するために可能な限り透明性を確保する必要がある、ということだ。
日本の官公需の場合、そこは水面下で不透明になされる傾向がある。そこが常に曖昧に扱われている。摘発されればアウト、そうでなければセーフというのが実際の実務のようでもある。そういう曖昧さが調達に係る諸々の問題の解決に資してきたということなのかもしれないが、だからこそコンプライアンスが不徹底にならざるを得ない状況を作り出してもきた。
この曖昧さが、「違反とまでは断定できない」という「いつもの」説明の出口にされてしまう。中小企業庁による持続化給付金事業の発注や内閣府発注のオリパラアプリ調達でも似たような論点が指摘された(筆者の過去の記事(例えば「「予定価格」という「魔物」」)参照)が、結果、法令違反には問われてはいない。
秘密にすべき情報を公告前に特定の業者だけに提供した(漏洩した)ということであれば、手続違背はいえるだろう。後は競争の手続を歪めたか、だ。納税者、有権者の競争に対する信頼を傷付けたという点を捉えて反公正性を理解するのであれば違反の射程は広がる。一方、発注者側の具体的利益に法益を見出すのであれば反競争的な結果があっても救える余地はなくはない。
事実の分析と評価は弁護士チームがするとのことなので、それを待ちたいが、あり得るシナリオは、「事前の情報のやり取りはあったが、競争の結果には実質的な影響がなかった。しかし、疑惑を招いたことは反省しなければならない。」というものだ。これは官製談合疑惑で違反を否定する側の定番の主張、弁解だ。しかし、報道を見る限りその説明はやや苦しいか。
公契約関係競売入札妨害罪における「入札」について、価格要素のみを競争の対象とするもの、あるいは価格要素に主たるウェイトが置かれるものに限定する(随意契約の場合も含む)という考え方がある。これを前提とするならば公募型プロポーザルで価格要素を考慮しないケースでは同罪の射程から外れるという結論に至ることになる。
一方、官製談合防止法違反罪においてはその対象は「入札」ではなく「入札等」となっており、同法では「入札等」とは「入札、競り売りその他競争により相手方を選定する方法」と定義されていることから価格要素を考慮しない、あるいは重視しない公募型プロポーザルもその射程内にあるという理解に違和感はないし、実際に企画競争型の随意契約に同法が適用されたことがある。
応募資格の設定、募集期間等も気になるところである。
調査段階でさらなる文春砲があるかもしれない。あるいは弁護士チームの報告を敢えて待っているのかもしれない。どのような材料が提供され、どう評価されるか、今後の展開に注目したい。