高まるデサンティス待望論、自滅するトランプ?

デサンティス州知事はトランプ2.0か?

フロリダ州知事、ロン・デサンティス氏は一地方の知事でありながらこれまで全米規模の注目を集めてきた。コロナウィルスが猛威を振るっていた2021年、デサンティス氏は政府や他州で実施されていた外出規制やマスク、ワクチンの義務化などに逆行して、経済を回すことを優先した独自のコロナ対策を講じた。その結果、バイデン政権と対峙する姿勢する共和党の筆頭として自らを位置付け、一躍党内ではポスト・トランプの最有力としてささやかれるようになった。

ロン・デサンティス フロリダ州知事 SNSより

その他にも、全米規模で共和党支持者の関心を集める、批判的人種論、LGBTQ、移民問題へのアプローチとして、デサンティス氏は保守系が好む法案を通し、対抗措置を実行してきた。

批判的人種論とは奴隷制や人種隔離政策の結果として、アメリカの法体系や政治制度にまで差別が組み込まれているとする学問的概念である。2020年頃からこの理論を用いて学校教育では自虐史観的な歴史教育が行われていると保守派の間で懸念が高まっていた。

実際のところ、批判的人種論は法科大学院などで使用される専門用語であり、この理論自体が初等教育の現場で教えられているのではない。しかし、自分たちの子女にとって適切な歴史教育が施されていない懸念は保護者の間で実際にあり、その声を受けてデサンティス氏は批判的人種論が教えられることを禁止する法律を採択した。

また、LGBTQ問題に絡めて、デサンティス氏はフロリダにおけるディズニー社の税制優遇措置をはく奪した。こちらも、批判的人種論と同様に教育現場を発端とする問題であった。

自虐史観のみならず、発達段階において子供たちに性的指向や性自認の問題について考えさせるのは教育上良くないとの意見を汲み取りデサンティス氏は上記の問題を教えることを控えさせる法律を作った。これに対し、ディズニー社の従業員は抗議し、それに対抗する形でデサンティス氏は税制優遇特区の資格を奪うことに踏み切った。

さらに、共和党支持者が特に関心を持つ国境管理政策についても独自の策を講じた。冷戦終結後、共和党の草の根のレベルでは不法移民への懸念が高まっていた。

特に、バイデン政権発足後、メキシコとの国境を通じて流入する移民の数は過去に類を見ない規模にまで膨張しており、共和党が強い南部の州の負担が大きくなっているという現状がある。そして、その不満に付け込み、南部州が過度な負担を請け負っていることを示すためにデサンティス氏はテキサス州にいた50人近くの移民を富裕層が住む島として有名なマサチューセッツ州のマーサーズ・ビンヤード島に移送した。

ドナルド・トランプ前大統領は集会などで支持者の不満や怒りに訴えることに注力し、政策実現にあまり関心が無かった。が、行政府の権限を積極的に行使して支持者の上記で触れた問題への保守的な解決策を提示するデサンティス氏は洗練されたトランプ大統領という一面を見せてきている。それゆえデサンティス氏がトランプ2.0であるという声も出ている。

トランプ候補より、自身の再選が全て?

トランプ氏が2024年の大統領選に出馬しない場合は、現状の世論調査通りだとかなり高い確率で、デサンティス氏は大統領候補になれる確率が高い。しかし、依然として、トランプ氏の影響力は高い状態にある、FBIの家宅捜査後にその影響力が一段と強まったことを考えれば、今の状況で対抗馬として名乗り出ることは難しい。

しかし、共和党を支配しているように見えるトランプ氏だが、中間選挙での自身の振舞いに対し、党内から不満があがり、声高に批判する人物もでてきている。

今年の中盤まで11月の中間選挙本選に出馬をする共和党候補を決める予備選が全米を通じて行われ、トランプが推薦する候補が多く勝ち上がった。しかし、自身が積極的に介入し結果を左右してきた予備選の時とは一転し、本選ではあまり力を入れていないことが伺える。

バイデン大統領がレームダック化するか否かを決めるペンシルベニア州、オハイオ州、アリゾナ州の上院選ではトランプ氏が推薦した候補が闘っているが、選挙資金が足りずに民主党候補の猛攻に直面している。しかし、共和党候補たちは莫大な政治資金を抱える肝心のトランプ氏から資金援助を受けることができず、挙句の果てにトランプ氏の政敵であるミッチ・マコネル上院院内総務に泣き寝入りしてお金を無心する始末である。

だが、実際にトランプ氏が自薦した候補の応援に駆けつけても、自分のことを話すだけで、候補が新たな支持を獲得するための貢献をしようともしていない。オハイオ州上院選のバンス氏の応援に駆け付けたトランプ氏は、バンス氏のことを嘲笑する発言をし、他人の集会でありながら自身の大統領としての業績を延々と語り続けた。

この2024年の大統領選のことだけを考え、自身の推薦候補に目もくれねトランプ氏のふるまいに対し、保守系論客であるベン・シャピーロー氏は自身のポッドキャストで鋭く批判した。シャピーロー氏は自己中心的に振舞っているトランプ氏を批判し、2021年ジョージア州の補選にトランプ氏の悪影響によって負けてしまったせいでバイデン政権の左派的な政策が実現されたと示唆した。

そして、その直前にシャピーロー氏はトランプ氏を暗に批判しながらデサンティス氏を高く持ち上げ、デサンティス氏こそが2024年の大統領候補として相応しいことを視聴者にアピールした。

そこで質問です。もしあなたが典型的な保守派有権者のように 2024年の可能性を見ているならば 誰がいいのでしょうか? フロリダ州の非常に有能な知事? 不法移民のようなアメリカ国民にとって重要な問題でメディアを常に反応させ、共和党の仲間に資金を提供し、特定の選挙戦で最高の候補者を選ぼうとしているのは誰でしょう。それとも、自分が選んだ上院の候補者たちに小切手を切ることもできず、音楽を流しながら集会をして、人々が彼個人と連帯することに忙殺されているような男がいいのだろうか。

物議を醸せど、デサンティス氏は優秀で、カリスマ性がある政治家であり、現時点では有力な共和党候補並びに大統領候補でもある。だが、トランプ支持の党内支持が強まり、トランプ氏が2016年に勝利する要因となった候補者が乱立するシナリオを考慮すれば、彼の出番はまだまだ先となるかもしれない。

1994年の中間選挙で共和党が下院を奪還することに貢献したニュート・ギングリッジ元下院議長が言うように、デサンティス氏が真剣な大統領候補となるのは2028年まで待たねばならないのだろうか。