医師の働き方改革、今後どうなる?

医師の働き方改革はまったなし

あこがれの職業をあげてください、といわれれば、すぐに上がってきそうな職業として医師があげられます。

高給である、社会的地位が高い、という印象から子どもになってほしいと思う親も多いようで、とあるリサーチ会社が行った調査では子供になってほしい職業の男の子第3位にランクインしています。ところが、その華やかな印象とは裏腹に医師という職業はかなり過酷な勤務実態があります。

実はあまり知られていませんが、医師の働き方の過酷さは異常なレベルにあります。厚生労働省が平成28年(2016年)に行った調査によれば、病院勤務医のうちの実に4割が、過労死ラインと呼ばれる月80時間の水準を超える時間外・休日労働を行っている状況にあります。さらに、過労死ラインの2倍に当たる月の超過勤務時間が160時間の水準を超える医師が全体の約1割を占めていました。

月の超過勤務が160時間というのがどのような働き方かというと、毎日朝から夜遅くまで診療をした上で、週1回泊まり込みの宿直をして、完全な休みは週に1日というくらいの水準なのです。この数字が、いかに過酷な働き方か理解してもらえるのではないでしょうか。

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医師の働き方が過酷なことで医療にどんな影響があるか

「医師は高給だから、長時間労働でもいいんじゃないか」そう思う方もいるかもしれませんが、医師の過酷な働き方が続けば、あなたの受ける医療にもマイナスの影響があります。

実は、医師の数自体は平成20年以降、医学部の定員を増やす政策がとられています。そのため、医師の数自体は増加する傾向にあるのですが、特に、外科や産婦人科など、勤務時間が比較的長い診療科での診療を行う医師の数はさほど増えていない実態があります。

一般の企業でもブラックな働き方を求められる場合は、その企業ではなく別の企業で働こうという意識が働きますよね。同じことが医師の診療科選択においても発生しているということです。

また、マクロでみてもこれ以上医師の数を増やすのはあまりよい解決策にならないともいえます。

日本全体の労働力自体が縮小しています。医療介護が必要となる後期高齢者(75歳以上)は2025年までは急増し、2040年に向けてその増加傾向は落ち着きを見せるのですが、日本経済のエンジンである生産年齢人口(15-64歳)は2040年に向けて急減することが確実です。

2015年には7700万人いた生産年齢人口は2040年には5900万人になるとみこまれています。

つまり、医療の需要は増えるが、医療の供給源となる働き手は減るというのが日本の姿です。

日本には、医療以外にもたくさんの産業があり、どの産業も2022年の今、すでに人手不足で苦しんでいるので、医療の労働力だけを確保すればいいというわけにはいかないのです。

2030年頃に医療需要がピークアウトすることも踏まえると、今から医学部の定員をさらに増やすと、専門医の資格を取得するまでに医学部入学から約10年かかりますから、今度は医師が過剰になってしまいます。医師の偏在対策と働き方改革をセットで進めることが必要なのです。

必要なことは、一人当たりの生産性向上です。また、一般の業種と異なり、出産・育児を機に仕事を離れることも多い女性医師の活躍も重要な課題です。

こうしたことを踏まえて、一般の業種よりも長い時間をかけて働き方改革に関する制度検討が進められ、2021年の通常国会に医療法改正など関連法案が提出され、成立したところです。この改正法に基づいて、2024年4月から医師の働き方改革の制度がスタートします。どんな改革がなされたか、どんな政策が2023年以降実施されるかをお伝えします。

(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2022年10月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。