全人代を終えた中国が向かうところ:習近平独裁体制のスタート

中国の全人代が終了しました。23日に人事が発表されるはずですが、大枠が見えてきました。習近平氏が3期目に入ること、中国版「神セブン」である政治局常務委員については共青団である李克強首相と汪洋氏が退くなど7人中4人が退任する動きとなりそうです。また幹部25人衆のなかに王毅外相が入り、外交トップだった楊潔篪氏が年齢による引退でポジションを引き継ぐことになりそうです。王毅氏は既に年齢制限の68歳を超える69歳となっていたことから引退されると予想されていました。これはかなりの想定外であります。

今回の人事を一言で言うなら習近平氏独裁体制のスタートです。国内の敵がいない状態で少なくとも今後5年間は突っ走れることになります。また、全人代で「二つの確立」が注目ワードとなりました。この二つとは「中国共産党の習近平総書記(国家主席)の『全党の核心』としての地位と、習氏の思想の指導的地位の確立を指す」(時事通信)とあります。今の若い方にこの言葉の意味するところ、あるいはこのような思想や表現は相当違和感があると思います。何を意味しているかといえば中国が習氏の思惑通りに進むことを全力を挙げて支える、です。つまり、中国14億人の運命は習氏一点に集中し、託すという意味です。

第二十次全国代表大会の様子 中国共产党新闻より

こんなことがあり得るのか、そもそもそれが不思議です。ちなみに全人代最終日、胡錦濤前総書記が途中退席するシーンがありました。ひな壇に座っていた胡氏が係員に腕を取られながら退席するのですが、その横にいた習近平氏と何らかの会話を一言二言、交わしています。胡氏は民主派であるゆえに全てが覆された中でその席にいること、拍手で習氏を称えることに嫌気がさしたのでしょうか?

全人代の初日の演説でゼロコロナ対策を継続すること、及び台湾について「武力行使を放棄するとは決して約束しない」と述べ、一つの中国政策をまい進すると述べています。前者のゼロコロナ政策がなぜ意味あるかといえばコロナ対策について国民の不満が相当溜まっているのにそれを敢えて、「まだまだだ!」と述べたからです。これは単に海外に出られないのみか、状況次第ですぐに国民が域内管理体制下に敷かれることを意味します。私はこれはていの良い理由で、国民を完全管理下に置く施策を行っているとみています。

例えば中国国民を海外に出さない理由は出せば海外に投資をしたりして私欲を満たし、中国元流出を引き起こす問題を繰り返したことを徹底的に潰すことにあるからでしょう。習氏は自分の敵になるような可能性があるものは仮に泡沫であっても絶対に許さず、叩くことに注力するのです。また、緊急事態があった時、都市ごと、地域ごとに封鎖コントロールする体制を確立しているものとみています。つまり「防疫」と言いながら誰がどこに住んでいるか、どうやって地域支配するかチェック体制を整えているはずでかつての紅衛兵ならぬ白衛兵が跋扈する状態にあるのでしょう。

これは台湾政策よりもはるかに意味があることで、14億の民は完全に支配下に置かれたということです。ジョージオーウェルの「1984年」の完成です。恐るべきことです。

次に台湾政策ですが、習氏が人事的に完全に国内政治を掌握すればほぼ、自由に政策決定をすることができます。よって自己目的の実現である台湾統一はさほど遠くない時期に実行するとみた方がよいでしょう。参考までに香港民主化運動は2017年の全人代から2年後に盛り上がり2020年に制圧しました。そして残り2年で安定化を図ったのです。

習氏は5年を一つの括りで考えていますので2022年から27年までの5年間に台湾統一と安定化を図るとみています。

その場合、外交日程からすると2024年秋にアメリカ大統領選挙があり、25年に新しい大統領が就任します。その際に未知の大統領と戦う方がよいのか、比較的取り組みやすいバイデン氏がいるうちに実行するのか、とすれば私は後者、つまり、バイデン氏の時代にやるだろうとみています。バイデン氏は11月で80歳になり、体力的な衰えもあり、まさか2期目の候補になるとも思えず、外交は実質的にブリンケン国務長官が仕切る状態になっています。

世界を見渡してもロシアの暴挙に対して第三国はバラバラであることを見せつけました。つまり、ロシアにすら直接的で強硬な手段を取れないとすれば中国には更に手を出しにくいことを裏付けたのです。バイデン氏は台湾問題に様々な抵抗を見せるとしても武力に訴える公算は低いとみているのではないでしょうか?台湾は2024年1月に総統の選挙があります。仮に新しい総統が現与党の民主進歩党から出るのか、野党の中国国民党になるのか対応はかなり相違します。そのあたりを考えれば2024年春からアメリカが大統領選で揺れる間が台湾統一の実行を目指すタイミングになるのではないでしょうか?

その前に24年の台湾の総統選挙がどういう形で展開するかも見ものです。中国としては民主進歩党の力は削ぎたいわけで、運動員が暗躍するものと思われます。ならば、23年半ばあたりからきな臭い動きが出てくるというのが私の描くシナリオです。

中国は日本に対しても強硬になると思います。それは外から見れば今の日本はどの面を持っても強くないとみているからで、リスペクトは表面上だけになるでしょう。嫌な言い方をすれば現政権の岸田氏、外相の林氏、幹事長の茂木氏三人が中国との和平派ですので今なら波風は立たない、だけど、仮に日本で保守派の声が強まればその倍返しで中国が頭を抑えようとするでしょう。変な話ですが、それゆえに岸田政権は案外長持ちすると思うのです。(経済界も中国との軋轢は好まないはずです。)

保守派には異論が多いでしょうが、今の日本はこれに立ち向かう力が十分ではないので残念ではありますが、大勢は「事なかれ主義」になるのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年10月23日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。