日本の「魔女狩り」の背景について

日本では毎年、その年の社会的な状況を最も表した「流行語大賞」が選ばれる。それに先立ち、当方は「2022年の言葉」を選んだ。ズバリ「魔女狩り」だ。中世の欧州キリスト教社会で頻繁に生じた社会的現象を表現した言葉だが、キリスト教圏に入らない日本社会で今年、その「魔女狩り」という社会現象が見られるのだ。現代風に表現するならば、「バッシング」だ。

令和4年11月21日 寺田総務大臣の後任等についての会見 | 総理の演説・記者会見など | 首相官邸ホームページ

閣僚辞任と支持率低下に直面する岸田文雄首相(2022年11月21日、首相官邸ホームページの動画のスクリーンショットから)

安倍晋三元首相が7月8日、選挙応援のために訪れた奈良市で演説中、山上徹也容疑者に銃殺されるという事件が発生した。事件から早や4カ月以上が経過したが、事件の核心は依然闇の中だ。その一方、容疑者の母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の信者であり、高額献金で家が破産したことから、容疑者は旧統一教会を恨んでいたという供述だけが独り歩きし、左派系メディアは事件の核心をフォローするのではなく、旧統一教会叩きを始めた。旧統一教会、その関連団体と関係や接触のあった政治家、議員、団体、ひいては個人まで左派系メディアのバッシングの対象となっている。

ここにきて、岸田自民党政権は閣僚辞任が続き、支持率を低下させている。そのため、政権延命手段として旧統一教会バッシングに加わってきた。すなわち、日本社会では左派メディアに政府が連携して旧統一教会への魔女狩りを展開しているわけだ。

タイムリーというべきか、オーストリア国営放送のウェブサイト欄で23日、「何故人間は魔女や魔術を信じるか」というテーマで興味深い記事が掲載されていた。日本社会で現在進行中の「魔女狩り現象」を考えるうえで参考になると思ったので、その概要を紹介する。

おとぎ話の世界では魔女は箒(ほうき)に乗って飛び、子供を呪ったり、有害な呪文を唱えたりするが、科学技術が急速に進展している21世紀、魔女や魔術を信じる人が少ないと思いきや、超自然的な力への信仰は予想以上に強いという。オーストリアのような西側諸国でさえ、1割近くの人が魔術を信じ、世界では国民の90%が信じている国すらあるという。

近代以前、伝染病、自然災害、作物の不作などが生じると、その原因は通常、超自然的な力であると考えられてきた。神、悪魔だけでなく、魔法の能力を持つ魔女たちの仕業と受け取られてきた。魔女、魔術のルーツはおそらく石器時代に遡る。

ヨーロッパでは、この魔女狩りは中世の16世紀にピークに達した。タンザニア、コンゴなどのアフリカやインド、南米などでは今日でも魔女狩りが行われ、魔女と呼ばれた人は拷問され、さらには殺されている。一部の地域では迫害が非常に深刻であるため、国連人権理事会は昨年、有害な慣行を非難する決議を発表したほどだ。

ところで、エコノミスト、ボリス・ガーシュマン氏は専門誌「Plos One」の中で、啓蒙され、高度に発展した西側諸国でさえ、依然として多くの人々が魔女(の存在)、魔術を信じている、という研究結果を報告している。

同氏の研究では2008年から17年の間にピュー・リサーチ・センターがインタビューで収集したデータが利用されている。そこでは、95カ国の14万人を超える人々からデータが集計されている(中国、インド、アフリカとアジアの一部の国は参加していない)。

ガーシュマン氏によれば、回答者の40%以上が魔女の存在、魔術を信じている。ただし、国によって割合は大きく異なる。スウェーデンやデンマークなどの北欧諸国では、魔女信仰は約9%と最も低く、オーストリアではドイツと同様、約13%だ。アフリカのいくつかの国では魔女の信者が多く、チュニジアではほぼ90%という。

ガーシュマン氏は、魔女信仰と相関する個人的および社会的要因を分析している。高等教育を受け、安全な経済基盤を持つ人々は、無宗教の人々と同様に、超自然的な力を信じることは少ない。その一方、社会レベルで魔女信仰を助長している要因として、国家の制度が弱く、社会の統制機能が不安定で、国民経済が停滞している、等々が挙げられている。

また、個人や見知らぬ人への不信感が強い社会では不合理な信念をもつ人々が出てくる。一般的に、魔女を信じている国の人々は幸福感に欠け、人生に悲観的で自制心が少ない。経済発展やイノベーションは期待できない。近代的な生活様式と伝統的な生活様式が混合した社会では魔女信仰が見られやすいという。

まとめると、国家が不安定で、社会制度が脆弱、経済発展は停滞し、人生に対して悲観的なムードが強い社会では、魔女、魔術信仰が見られやすいという。逆にいえば、社会が幸福感に包まれ、経済が順調に発展しているような社会、国家では魔女信仰は見られず、魔女狩りといった社会現象は少ないというわけだ。

「あなたは魔女(の存在)や魔術を信じますか」と日本人に聞けば、大多数の日本人は侮辱されたような気分になり、「そんな原始的、非近代的な信仰は持ち合わしていない」と一蹴するだろう。

その一方、社会の負の現象や経済的停滞感の犯人捜し(スケープゴート)を意識的、無意識的に始めている。そして2022年、その犯人は旧統一教会だというわけで、冷静に考えることなく、政府、メディアは総動員で旧統一教会バッシングを始めているわけだ。文字通り、魔女狩りだ。

現代の日本社会は、魔女狩りが行われた欧州の中世時代のようだ。ただ、欧州の魔女信仰やそれに関連した魔女狩りには程度の差こそあれキリスト教の影響があったが、日本の場合、共産主義という“偽宗教”が魔女狩りをプッシュしている。魔女や魔術を信じない日本人が魔女狩りに乗り出すという風景は異様だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年11月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。