ファイブフォース分析で病院、薬局、製薬企業の業界構造を知る

業界の構造を知り、経営戦略を立てる

病院や薬局、製薬企業の今後の戦略を立てるために、医療業界の構造をファイブフォース分析を使って理解します。

ファイブフォース分析とは、ハーバードビジネススクール教授のマイケルポーターが考案したものです。マイケルポーターは、産業構造の分析を行うことで業界の基本特性を発見した上で、企業は競争戦略を策定しなければいけないとしています。(マイケルEポーター、新訂「競争の戦略」P21。次項の「2)5つの競争要因とは」の内容は同書を参考)

今はほとんど見かけなくなったガラケーを例にとると、ガラケーを主力にしていた企業の場合、短期的な円安・円高による部品価格の変動を気にするよりも、むしろスマートフォンの台頭という技術革新にどう対応するか、が企業戦略の上では、クリティカルだったはずです。

医療業界に分類される医療機関や薬局も、短期的な環境の変化に惑わされず、まずは自分たちの置かれている業界の状況を正しく把握した上で、戦略を立てなければいけません。

5つの競争要因とは

ファイブフォース分析は、(1)買い手の交渉力、(2)業者間の敵対関係、(3)売り手の交渉力、(4)代替製品・サービスの脅威、(5)新規参入の脅威、という5つの要因を分析して業界構造を把握するものです。それぞれの要因は以下のように理解できます。

<買い手の交渉力>
普段の買い物の中でも、値切り交渉やまとめ買いをすることで値段を下げてもらう方もいるかもしれません。皆さんが値切れば、当然企業の利益は減りますし、全体売り上げに占めるあなたの購入量が多ければ、売り手もあなたに配慮して売値を下げるでしょう。
離島に行くと、ひとつしか食料品店や薬店がない場合があります。この場合には、その島に住む人はその店でしか食料や薬を買うことができないので、買い手の交渉力は弱まります。そのため、店としては過度な値下げの必要はなくなります。

<業者間の敵対関係>
競合との関係が協調ではなく敵対的なものである場合、売り上げ増や顧客獲得のために余分な投資が必要となり、その結果、利益が減少することになります。

例えばスーパーマーケットで売っているものは独自性が弱いので、買い回りをして一番安いところで商品を買う人も多いはずです。近隣のスーパーマーケットと同じ商品を売っていて、他にウリとなるものがない場合、価格を下げたり、新聞広告を出したりして競争に勝とうとしなくてはいけません。

高級スーパーマーケットは、顧客層が違うので少し事情が違うでしょうが、スーパーマーケットは、買い手の交渉力が比較的強い業界といえます。競合との争いが激しいと、値下げや宣伝費の上積みが必要になります。

<売り手の交渉力>
その企業で売るための商品(労働力も含む)やサービスを納入している企業がたくさんあったり、品質に差がない場合には、売り手の交渉力は弱くなり、納入先の企業は高い利益を得ることができます。

労働力でいうと、日本で人手不足が叫ばれて久しいです。人手不足は、売り手(この場合は労働者側)の交渉力が高まる要因の一つですが、セルフレジの導入など機械で代替できるような仕事の場合は、交渉力は弱まり、機械で代替することが難しいような専門的な仕事の場合は、売り手の交渉力は強くなります。

<代替製品・サービスの脅威>
ある企業が販売している商品について、代替品がある、又は登場しうる可能性がある場合、その企業の利益率は下がる傾向にあります。代替品とは技術革新により、生まれるまったく別の製品やサービスが出てくる(?)こともあります。

例えば、デジタルカメラにとっては、異なるジャンルであるスマートフォンの登場がまさにその代替品に当たるでしょう。地上波を放映している企業からすれば、YouTubeなどのインターネットサービスがそれに該当するといえます。インターネット広告の売り上げがマス4広告(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)の売り上げを超えたというニュースも2021年度にはありました。

<新規参入の脅威>
新規参入者が入ってくることは、競争が激化することを意味します。価格競争も激しくなりますし、顧客獲得に割くリソースも増やさないといけません。結果、企業の利益を減らすリスクになります。

開業に資格要件が必要だったりして、かつその資格の取得難易度が高い場合や、初期投資にさほどお金がかからない場合などは、新規参入者の脅威は比較的低くなります。居酒屋は取得困難な資格要件は不要なので、新規参入者の脅威は強いといえます。

中小企業庁の統計によれば、宿泊、飲食サービスについては、開業率も高いですが廃業率も高く、入れ替わりの激しい業界ということができます。

このファイブフォース分析を、病院、薬局、製薬企業に当てはめてみるとどうなるでしょうか。結論から言うと、政策に守られてきた医療業界にも技術革新、それに伴う政策の大幅な変更が起こることが見てとれます。

医療業界は規制による影響を他の産業よりも強く受けます。医療に関わる皆さんは、今回お示しする業界構造と政府の動きを踏まえ、今後の政策の方向性が正しいかどうか、政府の方針から抜け落ちている論点があるかどうかを検討し、今後とるべきアクションについて再確認することが必要です。

(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)

luza studios/iStock

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2022年11月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。