「独身で40代以降になった人は狂う」は本当か?

黒坂岳央です。

本稿のタイトルがTwitterのトレンドに上がり、盛り上がっていた。そこには様々な「40代未婚で狂った人たちのエピソード」が持ち寄られ、議論が交わされている。

独身で40代を迎えることで狂う人、狂わない人にわかれると思っている。だが同時に、結婚したことで狂う人も多数いる。このあたり、情報が複雑で混沌としていると感じたため、状況を整理する目的を持って本稿は書かれた。すべて個人的な独断と偏見による意見にすぎないことに留意頂いた上で読んでもらいたい。

Chalabala/iStock

結婚に向いている人・いない人

最初にするべきは「結婚に向いている人・いない人」に分類する作業だ。これを置いては何も始まらない。

結婚に向いている人は、酸いも甘いも噛み分けるプロセスを楽しめる気質の持ち主であり、ビジネスや自由が人生の第一義的目的に置いていない人である。

結婚をすると明確に未婚のままでいるよりも人生経験豊富にならざるを得ない(後述する)。その変化と混沌を楽しめる回路があるかどうかが、必須要件の1つに挙げられるだろう。また、結婚をすると他人だった相手と運命共同体に近い存在になる。だからこそ、自分より配偶者が大事と思えるほど人間を愛せる気質を持っていることももう1つの要件になるだろう。

翻って結婚に向いていない人の1つに、人生を丸ごとかけて挑戦したいものがある起業家気質や投資家気質の持ち主が挙げられるだろう。

ビジネスや金融トレードにフルコミットする人は常人とはかけ離れた集中力を持っている事が多く、自分の知っている金融トレーダーの中にはマーケットにライフスタイルのすべてを委ねるような生活をしている人物がいる。CPIや雇用統計、その他相場に影響を与えるファンダメンタルズ要素や、急な値動きを中心に、自分の生活を合わせにいくイメージである。それをすると明らかに結婚生活に影響してしまうだろう。

また、ビジネス起業家は睡眠はオフィスの床や椅子で眠り、その場から一歩も動かす毎日16時間以上のハードワーカータイプも結婚生活に向いていないだろう。だが全員ではない。こうした気質の持ち主の中にも、うまく結婚生活をハンドリングできている人物もいるが、あくまで例外と考えるべきではないだろうか。

結婚に向いている人がしないことで、一部狂う人が出てくるだろう。しかしその逆に向いていない人が無理に結婚をすると自分も結婚相手も不幸になる。まずは結婚に適しているかどうかの軸で考えるべきだと思っている。

未婚・独身のまま40代になって狂う人たち

次に未婚・独身のままに40代に突入して狂人になった人たちのエピソードを取り上げたい。狂うといっても抽象的であり、いろんな狂い方があるが、概ね2パターンに大別されるだろう。

 

【1. 人寂しさで狂う】

まずは何と言っても、寂しくて狂うというタイプだ。SNSでよく見るのは独身の工場勤務男が40代になり家族を持てない寂しさと、代わり映えしない生活のまま明確に衰えを感じる中で「結婚をして子供を育てる人生を送りたかった。こんな人生はもう生きていたくない」と一人で嘆き悲しむイメージである。

マンガで表現した作品もあり、「20代・30代では一人で一生生きていく辛さは分からない。地獄は40代から始まる。今若い人は一日も早く結婚しておけ」という趣旨のメッセージが添えられていることも多い。

【2. 行動が狂う】

次に未婚のまま40代を迎えると、ライフイベントは親の葬式と友人の結婚式くらいしかなく、年齢を重ねた自覚を得る機会が少ないため、年齢不相応な「痛い行動」が目立つという意見である。

  • 40代なのに20代若い時の服装、若いノリや言動で「若作りが痛い」と言われる人。
  • 他人へのあたりがキツく、特に若い人から嫌われてるいわゆるお局さん。
  • 世の中、社会、他人への不満ばかりを言い続ける人。
  • 子供部屋おじさん・おばさん。

こういう意見が観測された。1は独身のまま時の経過で狂ってしまうパターンだが、2は意識が年を取らないことで40代という社会的記号との齟齬が「狂っている」と形容されているケースであろう。

結婚をすると本当に「大人」になれるのか?

昭和は結婚をすることで一人前だとされた。そしてこの言葉は、全面的に支持できるわけでもないが、かといってまったくの的はずれな意見ばかりでもないと感じる。その根拠を取り上げたい。

結婚をして子供ができると、生活はまさしく一変する。それは自分自身の身をもって現在進行系で体感している。それまでは恋人の延長線上のような関係だった配偶者とは、戦友のような関係性へと変わる。これは子供という超不確定性に満ちた存在かつ、もはや生まれる前へ戻せない不可逆的事実を受け入れながら上手に日々を波乗りするには、夫婦二人で戦略的ハンドリングが必要になるからだ。

筆者は戦争のように慌ただしい育児や家庭をこなしつつ、子供や家庭、ビジネスをテーマにほぼ毎日、妻とディスカッションをしながら都度、最適解を再構築している。そうしなければやっていけないほどに、子供がいる生活は大変だからだ。

だが、そのことによって個人的にはずいぶん人間的な成長が出来たとも思っている。育児を通じて次の世代を育成する重要性を社会全体の観点から理解できるようになったし、不確定性に対する胆力がついた。そのことで小さなことにイライラすることもなくなった。それは他人と接するときにも現れており、特に自分より若い人と接する時は、以前より優しくなれ相手の育成を心から願って接することができるように変わったと思う。

これが属にいう「丸くなった」ということなのだろう。ライフイベントも大変に多く、忙しくこなしながら日々を過ごすことで思い出と経験は、山のように積み上がっていく実感もある。

未婚40代でも狂わない人

しかし、この生活は万人に向いているとは思えない。特に上述したようなビジネスの起業家や、フルコミットメントする金融トレーダーが結婚をすると、子供や家庭中心の生活を送ることはかなり難しい。

そうなれば妻側が仕事をすることは叶わなくなり、必然的に専業主婦になる可能性は高まる。実際、自分が知っている限り起業家やトレーダーで結婚している人の奥さんは、一人の例外もなく仕事をやめて専業主婦をやっている。そして一部の人は結婚や子供自体が、自分の人生目標を目指す上でマインドシェアを奪う要素にしか感じない人もいるだろう。猛烈なハードワーカーの中には、仕事に集中したくて離婚する人もいるくらいだ。

こうした人達は独身でも狂わない。もとい、彼らは最初からある意味で狂っているので未婚のまま40代に突入しても、変わらないと言えるのかもしれない。

様々、持論を述べてきたが未婚40代で狂う人はいるかもしれないが、結婚して狂う人もいるし狂わない人もいる。結局、結婚してみないと自分が狂うかどうかなどわからないのだから、「独身のまま40代になると辛いぞ」と、むやみに相手の不安を煽るような脅しはするべきではないと思う。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。