脳の老化を知らせる「ある行動」

黒坂岳央です。

精神科医や脳神経医学者が口を揃えて主張することがある。それは「老化とは体力や単純記憶の衰えではなく、前頭葉の萎縮である」ということだ。つまり、感情や意欲の減退が人生からあらゆる可能性を奪い、行動力をなくし、結果として本当に脳機能や体力の衰えを招くというのだ。

そしてこの行動が頻繁に出るようになれば、それは脳の老化がやってきたことを意味するという。医学的にいえば「保続」。一般的な言葉に置き換えるなら「前例踏襲」。つまり、「他の人と同じでいい」「前例に倣う」という思考や行動こそが老化であるというのだ。

生理的な老化は誰にも止めることはできない。しかし、意欲や感情の衰えは生活習慣や環境を変化させることで抗う事が可能だ。筆者は医師ではないが、昔から老人医療や老化のプロセスに強い関心を持つ、一介の個人研究者である。本稿では自分が知る限りの知見、経験に基づき私見を述べたい。

Deagreez/iStock

「いつもと同じ」は老化現象

「なぜ親戚のおじさんは毎年、まったく同じ話をするのか?」

昔からこれを不思議に思っていた。会うたびに毎回同じ昔ばなしを聞かされるのだ。それ以外にも話のテーマもほとんど同じ。親戚で集まる店も同じ。食べるメニューも同じ。年をとるとあらゆる行動を踏襲することを幼心に何となく感じていた。しかし、ここへきて「保続」というキーワードを獲得し、様々記事や文献を読み漁った結果として「いつもと同じ」を選ぶ人は老化している人間なのだと理解し、腑に落ちた。

ちなみに保続が最も早く現れるのは、音楽の趣味だろう。過去記事に33歳から新しい音楽を聴かなくなる理由とその対策について書いた。お年寄りは演歌ばかり聞くし、アラフォー世代は90年代のヒット曲を好む傾向にある。これも保続行動の1つだろう。「昔の曲ばかり聞くのは飽きた。新しい曲を聞こう」とはなかなかならず、どうしても気後れしてしまうのだ。

いつも同じ道を歩き、同じ人と付き合い、同じ内容の話をし、同じ食事をとり、同じ仕事をし、同じ音楽を聴く。ずーっと変わらない世界を生きていると、どうしても自分の経験に主軸をおいた頭の固い思考になる。新しいことや、異に対して否定的になりがちだ。変化できなくなり、他者に寛容でいられなくなる。我々がよく知る、いつも不機嫌な老人のイメージそのまんまなのだ。

心が老化しやすい環境

問題はまだ若い年代でも、保続しやすい環境に身を置くと自分もそうなってしまうということだ。

たとえばお役所や古い体質の企業などはその典型である。仕事は常に前任者、前例に倣い、変化を嫌う。そういった変化しない環境に身をおいているので、周囲の同僚や上司もずーっと変わらない。いつしか、変化しないことがその現場をサバイブする上での最適解として認識してしまい、新入りにも同じふるまいを求めてしまう。そのまま年を取れば、内外ともに立派な老人になってしまう。

心が老化しにくい生き方

筆者は過去に古い体質の企業でも、ベンチャー体質の企業でも働いてきたが両者は全くといっていいほど保続可能性が異なるように思えた。古い体質の企業では常に前例を踏襲する思考が働きやすいのに対し、ベンチャーではそもそもの「前例」がないことも多い。マニュアルがあっても変化が早いためにすぐに陳腐化してしまい、その都度アルゴリズム思考で最適解を導き出すことが求められる環境だったと記憶している。

システムも情報も人間関係もドンドンアップデートしていくので、常に勉強を余儀なくさせられる。そうしない人間はおいていかれてしまうのだ。こうなれば心は老化する暇はなく、やはりそこで働いている社員は年齢はおじさんでも気持ちはフレッシュで新しい技術も磨いていた人もいた。

経営者やフリーランスなども、ベンチャー企業のような気質になりやすい。後ろ盾は何もなく、自分ひとりで選択と結果の全責任を負うので、必死にならざるを得ない。常に勉強しないとサバイブできない。心の老化を許すということは、ビジネスも老化し、結果収益も先細りしてしまう。だから経営者やフリーランスは実年齢より若々しい人が多いのだ。

人の心の老化は自分の置かれた環境次第だろう。

日本が変化できない国家となっている理由の1つは、国家が老化しているためだと思っている。人口ボリュームは年配が占め、消費も選挙も多くは彼らが主導権を握っている。そうなれば、商品サービスや政治は彼らを中心に回ることになる。

事実、過去記事で書いたがアニメやゲームという分野でも、アラフォー世代が楽しめることを意識したリメイク作品が旺盛となっている。国家の若返りには、年配ではなく若者を主役にする必要があるだろう。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。