いつまでもあると思うな「若さと仕事」

黒坂岳央です。

代わり映えしない生活を送っていると、ついつい忘れてしまいがちなのが「若さと仕事は永遠に続く」という錯覚である。否、みんな頭の中では論理的には理解している。だが、現実的な実感としてまったく伴わないために未来は現状の延長線上にあると誤解してしまいがちだ。

若さは現在進行系で失われていき、今の仕事がいつまでもあるわけではない。この認識をしておくことで行動や習慣に大きな影響を与え、変化への対応力と生存確率を高めてくれると信じている。

kazuma seki/iStock

若くなくなるとできなくなること

誤解のないようにいっておくと、筆者はひたすらに危機を煽る悲観論者ではない。もとい、勉強や技術は何歳からでもできると信じているし、自分自身若い頃より圧倒的に日々勉強を続け、技術を磨いているという自負がある。その一方で、若くないことでできなくなることも現実問題としてありえる。

その最たるものは「若い行動」である。たとえば友人とバカな話で盛り上がったり、損得を考えず無鉄砲に面白そうなものに挑戦するといったことである。こうした行動は若い人は得意だが、歳を重ねると難しくなる。深く考えずに思いつきで旅行へ出かけるのは楽しそうなイメージがあっても、年をとるとあらゆる想定リスクを脳内でシミュレーションしてしまうために、実際に行動することを難しくしてしまうのだ。

年齢を重ねると交友関係が狭まり、結果的に人生観も限定的になりがちだ。若い時は同年代、年下、年上と誰と話しても経験が浅いが故に話をしていて楽しいと感じる。だが、年をとるとそうはいかなくなる。経験を重ねると表面的な浅い会話を楽しめなくなり、深い共感性を求める様になる。類は友を呼ぶという言葉通り人間はどうしても同じ属性、理解共通性の高い話題を楽しいと感じる性質があるためだ。その結果、人間関係が狭まってしまう。

また、年齢を重ねると行動の一挙手一投足にリターンを求めるようになってしまいがちだ。そのため、明確なリターンが示されない不確定性の高いものには、積極的に挑戦できなくなる。脳の前頭葉の萎縮に伴う意欲減退に加えて、過去の経験がジャマをして「どうせやってもこういう結果になるだろう」と決めつけたものの見方をしてしまうことで起きてしまうのだ。その結果、自分がよくわかっていない未知の対象に手を出すのが億劫になり、ドンドン世界は狭くなっていく。さらに日常生活や仕事、育児以外に使える可処分時間も制限されるのでその傾向はますます強くなる。

「若い内に遊びなさい」という言葉があるが、この指摘は的を得ている。歳をとった後では、若い時にしていたような遊びや活動的な行動は難しくなり、代わりに実利的な目的で行動することにスイッチングしていく。つまり、行動モードに変化が起きるのだ。つまり、今やれていることも将来、また違うモードに変わってできなくなる可能性もある。だからこそ、人生で一番若い今やりたいと思っていることは、絶対に先送りにせず今すぐ全部やり尽くすくらいの気持ちを持つべきだろう。

今やっている仕事はいつかできなくなる

世の中は絶えず代わり続けていく。そしてその変化の速度は時代とともにドンドン早くなっていく。技術の進展によって、既存の仕事に市場ニーズが失われ将来的に失業する可能性は常に考えながら人生設計をするのが良いのではないだろうか。

先日、高騰を続けるインフレに対応する施策の一環なのか、アメリカのノーステキサスのマクドナルドにおいて完全自動化の無人店舗をテストオープンしたことが話題になっている。

▲こちらの動画で無人店舗の様子を見ることができる

店内は完全に無人で、トイレはあるものの座って食べるためのテーブルや椅子は確認できない。ドライブスルーも無人で対応する。おそらく、出来上がっている商品をすぐに受け取れるgrab-and-goコンセプトなのだろう。

かつて1980年代の米国において低賃金の単純労働であると、マクドナルドのアルバイト職をMcJobというスラングが生まれた。このワードはCollins English Dictionaryにも掲載されている。だが、このテスト店舗が完全に機能すれば恐ろしいことになる。そのMcJobが姿を消すことになりかねないからだ。もちろん、営利企業である以上、採算が取れる前提でなければ拡充することはないだろうが、テクノロジーの進展と低コストの伸びしろは十分残されていると想定されることから、遠からず辞書からMcJobが消えてしまう可能性もありえる。

このような現象はクリエイティブにも及んでいる。昨今の例で言えばAIによる絵の作成技術は絵師の立場を脅かすレベルに到達したと指摘する人もおり、人間の仕事の中には消えていくものも現れてきた。

それを考えると、筆者を含め世の中にある仕事はこれから消えていくことになるだろう。そのため、いつまでも今やっている仕事が続く前提ではなく、「いつか消える可能性がある」ということを考慮しながら、なるべく延命できるビジネスの方法を模索するべきだし、可能ならこれまでの知識や経験を活用できる別の仕事へスイッチする道も検討するくらいでいいかもしれない。少なくとも筆者はそう考えながら日々の仕事をしている。

誤解してもらいたいくないのは、技術の進展は歓迎するべきことであるし、最悪を覚悟しながら最善策を模索する姿勢が変化への対応力の本質にあると思っている。だからこの傾向は否定しない。その逆に既存の仕事を無理に延命せさ、非効率性を受け入れるようになると社会全体に非効率性をもたらす結果になる。日本経済がかつての活気を失っている要因の一つに、変化を拒む姿勢もあるのではないかと思っている。

 

若さも仕事もいつかなくなる。だからこそ、現状に甘んじずに今できる最善を尽くしながら次の変化の扉を叩くというのが良いと思っている。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。