小池百合子流少子化対策の是非:東京の出生率が上がらない本当の原因とは

小池都知事が18歳未満の子供を持つ家庭に一人月5000円の給付を始める検討を開始したとあります。

このニュースのタイトルを見て、はじめに思ったこと。「おっ、東京都はもっと人口流入を増やしたいんだな」と。隣接県に住むより子供一人当たり年60,000円くれるのはありがたい、だから東京都に移住しよう、これが普通に考える反応です。

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実はこれが少子化対策だ、と言われれば確かに議論は出ると思います。東京都に対象年齢の子供は200万人いるので年間の支出は1200億円になるそうですが、大盤振る舞いそのものです。厳しい意見が出る一方で、ほかに目ぼしい対策を出したところは少ないし、政府はほとんど何もしないからやらないよりまし、という見方もあります。

岸田首相が最近になり少子化対策に本気で取り組むと述べていますが、少子化大臣が出来たのは2007年でそれから15年で25回、大臣が変わっています。そんな状態で今更「本気で取り組みます」といってもオオカミ少年のようなもので誰も信じないし、効果的な対策が打ち出されるとも思わないでしょう。

少子化の本当の原因、もう少し、深掘りすべきだと思います。

以前、私は宗教観がもたらす少子化の可能性を理由の一つに掲げたのですが、もう一つ、重要なことがあります。それは「生活の刺激」です。

もしも東京(あるいは日本)がつまらなくなったら子供は増える

この仮説はほぼ正しいとみています。言い換えれば今の東京も日本も楽しすぎるのです。だから若者が結婚も家族生活にも見向きもしません。6-7年前にこのブログで女性の社会進出を促進させれば少子化は避けられないと申し上げたのを覚えている方はいらっしゃいますか?外していないはずです。

政府や一般的な論理はこうです。女性の社会進出を推進⇒女性の時間が足りない⇒子供を作るには躊躇⇒養育の支援をする、です。このロジックでジャンプがあるのは「女性に時間が足りない」部分と「子供を産むには躊躇」の部分の間です。女性は社会的自立を始めると生活が楽しくてしょうがなくなります。自分で稼いだお金でおいしいものを食べ、友人と時間を過ごし、旅行に行く…という行為は男性よりはるかに高い行動力を持ち合わせています。(これは高齢者の男女を比較してもわかると思います。)故に時間が足りないのです。

一方、お金のことに非常に繊細である点も確かです。一昔前、独身OL(死語ですね)が年間〇百万円の貯蓄をし、20代でマンションを購入といった話がちらほら聞こえてきたことがあります。これは行動心理学からすると珍しいことではなく、最終的に自分の力で老後まで生き延びるという本能が先行します。よって「結婚しない」ワーストケースシナリオの生活プランが生まれやすくなります。

実はここがトリックでワーストケースシナリオのはずがいつの間にか結婚した場合の相手の収入と安定性を査定しやすくなり、この男性と一緒になると私が苦労して貯めたお金はどうなるか、という現実を見やすくなる傾向は否定できないのです。もちろん、全ての女性がそうではありません。ただ、大局観としてその傾向はあります。故に結婚が促進されないのです。私がパートナー同士でも子供を認める社会を形成せよ、というのはお財布を一緒にするか、別々にしやすくするかがポイントなのです。

ということは普段の生活に刺激がなければ結婚を考えやすくなります。都道府県別の出生率では東京都がダントツのビリなのは「楽しい、忙しい、稼げる」の三拍子が揃っているわけです。小池さんに子供がいないのは何故、といえば女帝として充実した刺激あるライフを送ってきたからですよね。

では日本は今後も予想を上回るペースで少子化が進んでしまうのか、と考えたのですが、唯一の可能性は日本、あるいは東京が極めて成熟化し、若者が「もういい!もっと人間らしい生活に戻りたい」と思った時に出生率は上がるかもしれません。ならば、適齢期を迎えたカップルを東京に縛り付けるよりもっと自然豊かな地域で住んでもらったほうが良い気がします。決して高層マンションではなく、地べたについた家です。

昔、調べたことがあるのですが、高層マンションでは高層階に行くほど人は外出しなくなるというデータがありました。(手元にもうありません。)これは心理の問題で高層階から下を見下ろした時、高ければ高いほど下界が遠くなり、外に出るのがおっくうになるのです。これが同じ高層マンションでもせいぜい7-8階以下ですと出歩きやすいのです。これを家庭環境という点に当てはめると戸建てとかせいぜい2階建てのアパートのようなところの方が子供には向いた環境になり戸建てが圧倒的に優れています。湾岸地帯や武蔵小杉の高層マンションに子供と住むのは選択肢として最悪なのです。

カナダには「ヤドカリのライフサイクル」というのがあります。独身時代のベースメント、結婚/同棲して安アパート、子供が出来て郊外の住宅、子供が大きくなって街中のコンドミニアムという具合です。キーは子供が出来たら地べたについている家です。住宅開発を長年やっている人間が言うのですから間違いありません。

とすれば小池百合子流少子化対策に不動産開発の目線からこう意見させて頂きます。

  1. 18歳未満月5000円と出生率改善とは何ら関係がない
  2. 東京都の高層マンションに子供を住まわせるよりもっと平面の土地利用を活性化させよ
  3. 東京を区分し、23区の一部は高度なビジネス特化地域にして都下を含めたそれ以外の地域をファミリー向け住宅が充実できる環境にせよ
  4. そのためには都心部は高層ビルを許可しても都下は極力マンションのない住宅開発を促進せよ

最後に一言。バンクーバーで高級住宅地の条件は交通の便が悪いところです。交通の便が良いところは都市化して環境が悪くなりトラブルも多くなります。とすれば少子化対策も子供の養育にも案外、駅から20分ぐらい離れたところの方が向いているという見方もできるのかもしれません。我々は駅近が良いという不動産屋の常套句に騙されていたのかもしれませんよ。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年1月8日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。