クロアチアといえば、国際サッカー連盟(FIFA)主催の世界サッカー選手権(W杯)での活躍を思い出す読者も多いだろう。クロアチア代表は準優勝した前回のモスクワ大会に次いで今回のカタール大会では第3位に入った。FIFAの最優秀選手賞にもなったMF ルカ・モドリッチ選手に代表されるクロアチアチームの華麗なコンビネーションの良さは世界のサッカーファンにとって魅力的だ。
残念ながら今回は「サッカーの話」ではない。クロアチアは2023年1月1日を期して欧州の単一通貨ユーロ加盟国に入ったのだ。同時に、欧州域内の自由な移動を認めたシェンゲン協定に正式に加盟した。クロアチアにとって、1991年にユーゴスラビア連邦から独立、翌年の1992年に国連に加盟、その後、2009年に北大西洋条約機構(NATO)、13年に欧州連合(EU)に加盟。そして2023年の今年、ユーロ導入とシェンゲン協定加盟で同国の欧州統合は完結した、ともいえるわけだ。その意味で、2023年はクロアチアにとって文字通り、新しい出発の年となるわけだ。
西バルカンに位置するクロアチアは人口400万人弱の小国だ。アドリア海沿いには欧州有数のリゾートエリアを有し、夏季に入ると欧州から多数の旅行者がアドリア海沿いの避暑地を訪れる。首都はザグレブだ。当方も何度か訪問したが、ザグレブの町の雰囲気はオーストリアの南部のケルンテン州のクラーゲンフルトに似ている。バルカンの風が吹くセルビアの首都ベオグラードとは違い、こじんまりとした欧州の小都市といった印象がある。
クロアチアが加盟することでユーロ圏は20カ国となった。ユーロ圏に入るためには物価の安定、健全な財政、為替レートの安定性、長期金利の安定性といった4つの基準をクリアしていなければならないが、欧州委員会が昨年6月1日公表したクロアチアの経済収斂基準によると、同国はそれらの4つの基準値を全て満たしていたと評価された結果だ。クロアチアの国民経済はユーロを導入することで貿易の輸出入コストを抑えることで競争力を強化でき、価格の透明性が高まることで世界の市場での信頼性を得ることができるなどのメリットが期待できるわけだ。導入時の交換レートは、1ユーロ=7.53450クロアチア.クーナだ(日本貿易振興機構ジェトロ「ビジネス短信」参考)。今月7日までにクロアチア内のATMの約7割でユーロの支払いが始まったという。
東欧.バルカン諸国の経済分析で有名な「ウィーン国際経済比較研究所」(WIIW)によると、「クロアチアの経済は、堅調な家計消費のおかげで、2022年上半期に力強く成長し、夏の観光シーズンも非常に堅調だった。その結果、22年のGDP予測を3.3%から5%に上方修正した。ただし、インフレの急騰とウクライナ戦争でのエネルギー価格の高騰など依然多くの不確実性はある」と予測。WIIWは23年、クロアチアのGDPの上昇率を2.5%と予測、24年には3.1%とみている。インフレ率は22年の9.5%から今年は6.0%と低下する一方、失業率は7.4%と昨年とほぼ同レベルと予測している。
一方、クロアチアは今年1月、加盟国内の出入国管理のない自由な人の移動を認めるシェンゲン協定に加盟した。欧州委員会は2021年12月の段階でクロアチアのシェンゲン協定参加資格を認めていたが、遅れてきた。例えば、不法な移民がバルカンルート経由で殺到しているオーストリアはブルガリアとルーマニア両国のシェンゲン協定加盟に反対する一方、クロアチアのシェンゲン協定加盟は支持してきた経緯がある。ちなみに、シェンゲン協定には、ブルガリア、キプロス、アイルランド、ルーマニアを除くEU加盟国とEFTA加盟国(アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン)の27カ国が参加している。
いずれにしても、クロアチアの欧州統合プロセスはバルカン諸国全体にとって大きな希望だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年1月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。