コロナの流行が始まった2020年には、日本の感染者数や死亡者数は、欧米諸国と比較して圧倒的に少なかった。その理由として、”ファクターX“の存在や高い日本人の民度のおかげであると説明されていた。しかし、コロナの流行が始まって3年、今や、日本の感染者数や死亡者数は、世界でも突出している(図1)。
1月5日に、世界保健機関(WHO)から、日本の感染者数が世界最多であることが公表されると、ネット上には様々な意見が寄せられた。最も多いのは、“真面目に検査して正確な感染者数を報告しているのは日本だけだ。他の国の数字は当てにならない”という意見である。流行初期には“日本はウイルス検査の実施を制限して、感染者数を少なく見積もっている”と批判されていたことを考えると隔世の感がある。
著者は、12月16日付けのアゴラで、47都道府県のデータを分析し、ウイルス検査回数と4回目ワクチンの接種率がコロナの新規感染者数と正の相関があることを示した。すなわち、検査をするほど、ワクチンを追加接種するほどコロナの感染者数が増えることになる。
Our World in Dataには、世界各国における新型コロナウイルスの感染者数、ワクチンの追加接種回数が含まれている。2022年6月23日からは、各国のウイルス検査の実施件数がOur World in Dataには公表されなくなったが、ヨーロッパCDCのホームページには、ヨーロッパ各国のウイルス検査の実施件数が掲載されている。
ヨーロッパ23カ国のウイルス検査の実施件数は、ヨーロッパCDCのホームページから、日本のウイルス検査の実施件数は、NHKの新型コロナウイルス特設サイトから抽出することができる。これらのデータを分析すれば、日本の感染者数が世界最多である理由が1)ウイルス検査の実施率が高いからなのか、2)追加接種率が高いからなのかを明らかにすることができると考えた。
2022年12月1日から31日までの人口10万人あたりの新規感染者数と同期間における人口10万人あたりのウイルス検査実施回数、2022年2月1日から10月16日までの100人あたりのワクチン追加接種回数の関係を検討した。以前、都道府県を対象にした検討では、既感染者数と新規感染者数との間には負の相関が見られたので、新規感染者数と2022年1月1日から9月30日までの人口10万人あたりの既感染者数との関係も検討した。
その結果、新規感染者数とワクチン接種回数とには相関係数=0.65、有意水準=0.002(図2)、ウイルス検査実施回数とにも、相関係数=0.47、有意水準=0.04(図3)と正の相関が見られた。多変量解析で、ワクチン接種回数、ウイルス検査回数は、それぞれ、P=0.0008、P=0.01と独立した有意な変数であることも確認された。既感染者数と新規感染者数とには有意な相関は見られなかった。
わが国の47都道府県の検討で明らかになった検査回数や追加接種回数と、新規感染者数との正の相関が、今回の世界を対象にした検討でも確認された。図3に示すように、ウイルス検査回数が多いほど新規感染者数は増えるが、最も多いのはギリシャの8108回であった。734回の日本は24カ国のなかで7位である。日本だけが、真面目に検査しているわけではない。
一方、日本のワクチンの追加接種回数は、100人あたり92回でダントツに多い。2位はベルギーの35回、3位はフィンランドの27回である。半数の12カ国のワクチン接種回数は、10回以下で、昨年1年間ほとんど追加接種は行われていない。
今回の検討から、日本の新規感染者数が世界最多であるのは、検査を真面目に行なっているからではなく、ワクチン追加接種が感染者数を押し上げているのが原因であることが判明した。第8波が収束しないのは、打ち方が足らないからだという理由でワクチン接種を推奨している政策を再考する必要がある。